詩
□鮫の涙
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深海を包み込む
無音に近いような
低いやさしい音
鮫は静かな海底にいた
おひれを揺らめかせ
あてもなく泳いでいた
鮫はいつからか
血を見ることに
嫌気がさしていた
だから鮫は孤独を選び
旅をはじめた
海底に墜ちた過去
それらは海に抱かれ
ゆっくりと朽ちてゆく
鮫は静かな海底にいた
落ちてくる雨を
なんとなく眺めていた
鮫はいつからか
死を見ることに
嫌気がさしていた
だから鮫は孤独を選び
旅をはじめた
過ちも嘘も
悲しみも喜びも
すべてこの海にとけている
鮫は静かな海底にいた
苔蒸したすみかで
わけもなく泣いていた
鮫の涙は
海にとけていった
鮫はなんだか
ほっとした気持ちになって
しばらく泣き続けた