復活

□Je te veuX
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5月5日。

が、雲雀の誕生日であることを俺は5月5日の朝に知った。


雲雀は、まあ、あれだ。俺の恋人である訳だ。仮にも恋人の誕生日を、俺は当日まで知らなかったのだ。
しかもリボーンさんに言われて知った。


『今日は雲雀の誕生日だぞ。』


朝、起きた途端にそう言われて、微睡んでいた俺は飛び起きた。
恋人の誕生日を知らないなんて、俺ってリサーチ不足だなあと自己嫌悪に陥る。

だが、ずっと落ち込んでもいられない。今からでもプレゼントを用意しなければ。
ただの中学生が用意出来るものなんて限られているが、ケーキくらいは買えるはずだ。

俺は財布を引っ掴んで家を飛び出した。



***



俺はケーキを片手にぶら下げて学校前にいた。

一応電話を入れようと思ってかけたのに、一向に雲雀は出てくれない。
仕方がないから諦めて校舎に入る。文句なんて言わせない。出なかった雲雀が悪い。

そう責任転嫁して階段を上る。校舎は静まりかえっていて、少しだけ暑かった。

応接室の扉を、がちゃりと音をたてて開ける。途端に雲雀の鋭い目付きが飛んで来た。


「ノックしてって言ってるだろ」

「今更だろ、そんなの」


雲雀の文句をさらりとかわしてソファに座る。またまた雲雀の目が俺を睨んだ。


「何しにきたの。連絡くらいしてよ」

「した。お前が出なかったんだろ」


そういうと雲雀は目を瞬かせてケータイを取り出す。同時に俺もケーキを慎重に取り出した。


「電源入れてなかった。……何それ。」


雲雀はそう告げてから、俺の目の前のものを凝視する。
今度は俺が目を瞬かせる番だった。


「何って、ケーキ」

「なんで」


不意に思う。こいつって疑問形にクエスチョンマーク付けねえよな。疑問形なのに。


「なんでって、誕生日だろ」

「誰の」

「お前の」

「……」

「……今日は何日だ?」

「5日。」

「5月5日ってお前の誕生日だろ?」

「……あれ、今日って何日、」

「5日。ってお前さっき言ったじゃねえか」


なんとも不毛な会話だ。
こいつはすっぱり綺麗に自分の誕生日を忘れているらしい。


「……とりあえず、ケーキ買ってきたから食おうぜ」

「うん」


今日の雲雀はなんだか素直だ。ケーキに釣られているらしい。

ホールは二人で消費出来ないだろうと思って、ショートを4つ買った。
雲雀がこの間食べたそうに見ていたフルーツケーキを2つと、チョコレートケーキにチーズケーキ。

目が輝いているので、プレゼントとしては合格のようだ。


「おいしい。」


せっせとケーキを口に運ぶ姿が可愛らしい。思わず頬が緩んでしまうのは仕方がない事だ。雲雀が可愛いのがいけない。
不意に雲雀がこちらを向いた。食べないのか、と目で問うてくる。


「食べちゃうよ」

「太るぞ。」

「…………」


軽く返すと雲雀は憮然とした顔で俺を睨む。いつもより子供っぽい表情に、また頬が緩んだ。
普段あれだけ動いている奴が太る訳はないのに、俺の言葉に反応する恋人に、どうしようもない嗜虐心が湧いた。
雲雀の艶やかな黒髪を撫でる。


「拗ねんなよ」

「拗ねてない」


そういう雲雀はやっぱり拗ねている。可愛い。
雲雀はまだ少し拗ねていたが、またケーキをぱくつき始める。
可愛いなあ。


「ねえ、これで終わりかい?」

「……は?」

「今日は僕の誕生日だろ。ほしいものがあるんだけど」


いきなり言い出した雲雀に困惑顔で声をあげる俺はかなりかっこ悪い。
ほしいものがあるならやりたいところだが、俺の財布は許可してくれなさそうだ。


「何がほしいんだ?今はそんなに金ねえぞ」

「ピアノ。」

「は?」


雲雀の一言に、俺は条件反射で聞き返す。
今何か、何かが聞こえた気がする。気のせいだと思いたい。

雲雀はもう一度繰り返して言った。


「ピアノ。」

「……っはあああ!?」


こいつは俺の話を聞いていただろうか。



***



「お前……誤解をまねくような言い方は止めろよ」

「なにが。」


さすがにピアノは買えない。そう断った瞬間、雲雀はきょとんとした顔で口を開いた。


「別にいらないよ。君のピアノが聴きたいんだけど」


そういう訳で、俺達は音楽室にいる。
雲雀は窓を開け払って窓枠に腰掛けていた。


「んで、何が聴きたいんだよ」


普段の俺だったら例え土下座されてもやらないが、今日は特別だ。
恋人の誕生日くらい、素直に言う事を聞こうと決意している。

そんな俺の心境をこれっぽっちも理解出来ない(と言うか、しない)雲雀は、黒髪を風に弄ばれながら気持ち良さそうに目を細めた。

……やっぱり俺の話聞いてねえな、コイツ。


「……サティ、良かったよ」

「あ?……ああ、よく憶えてんな」

「憶えてるよ。あの時、初めて君のピアノを聴いたんだから」


真っ直ぐに俺を見詰める瞳は、まるで黒石のように輝いている。
純粋に、綺麗だと思った。
あの日もこんな感情が渦巻いていた。俺はいつだって、初恋のような焦燥感を抱いている。


「だからまたサティが良いな……ねえ獄寺、聞いてるの」


雲雀の声にはっと息を呑んだ。
じいっと怪訝な視線をこちらに向けている。

……別に、あれだ、雲雀に見惚れていたとかそんなんじゃない。断じて違う。
なるべく平静を装って、ちょっと溜息までついてみたり。


「お前はサティが好きだなあ」

「君だって好きだろう」

「まあな。なんでも良いのか?」

「うん」


雲雀は短く返事をすると、目蓋を閉じてもう言う事はないと態度で告げる。完全に聴く体勢だ。

俺によって作り出される音を待っている。その事実に何故か胸が震えた。

お互いに素直じゃないから言葉にはしない。だけど、確かにそこには存在する気持ちがある。


サティが好きな雲雀なら解るであろう音の意味を紡ぎ出すために、俺は鍵盤を静かに叩いた。



Je te veuX






***


サティの歌と微妙につながってたり。ジュ・トゥ・ヴーはあなたがほしいと言う意味(らしい)です。

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