論破
□そのやわらかなくちびるをふさいで
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ぱらりとページをめくる音が聞こえる。
あと、自分の心臓の音。
表情も変えずに本を読み続ける十神クンを僕も体勢を変えずに見つめ続けている。
頬杖してるからそろそろ腕が痛い、かも。
よくそんな集中できるよなあ。
はじめは僕の視線がうるさいとかなんとか言ってたけど、いざ本を読み始めるとそれはすごい集中っぷり。用意したコーヒーも読む前に一口だけ飲まれてからは手をつけられていない。
そんなにおもしろいのかな、あの本。あとで内容を聞いてみようかな。
でもちょっと分厚いなあ。ボクには無理かも。
ぱらり、またページがめくられる。
まあ集中力なら、今のボクだって負けない。十神クンが本を読んでいるのと同じ時間、ボクは十神クンを観察しているから。
ここだけ言ってしまえば変質者っぽいけど。
ぱちりと瞬きをする目とか、少しだけ影ができる長いまつ毛とか、ページをめくる綺麗な指とか、ときどき組み直す足とか。
十神クン足長いなあいいなあ。背も高いし羨ましい。ボクより25cmも高いとか、十神クンって外国人の血でも混じってるのかな。
髪色も明るいし肌も白いしもしかしたら混じってるかも。ちなみにボクは生粋の日本人だ。典型的な日本人だ。本当に典型的で平凡な日本人だ。
みんな個性が強いから、逆に個性がない自分も存在感が強くなっているような環境。個性ってこわい。
ところでまだ終わらないのかなあ。2時間前に読み始めたし、そろそろ終わってもいいころなんだけど。
あ、でもページはもう少しだ。あと8ページくらい。たぶん。
はやく顔上げないかなあ十神クン。彼が不意打ちに弱いのを、ボクは知っている。
「……。」
ぱたり。ページをめくる音より重い音がして、ハードカバーが閉じられたんだと認識した。
十神クンは余韻にひたっているのか、遠くを見てるみたいだった。
「十神クン、どうだった?おもしろかった?」
「……おもしろくは、ない。」
ほんとに?あんなに集中して読んでたのに?
「……だが、つまらなくもない。少なくとも、今まで読んだ推理小説よりは興味深い。」
「……へえ。十神クンがそこまで言うなんて珍しいなあ。ボクも読めるかな」
興味深いとおもしろいって、何が違うんだろう。ボクには同じに聞こえるよ、十神クン。
くあ、と軽く欠伸をする十神クンを見つめつつ、ボクはまた口を開く。
「ねえねえ、十神クン」
「なんだ、愚民。……っ!?」
ボクの方を見た瞬間に十神クンの口を塞ぐ。あ、びっくりしてる。かわいい。
リップ音を軽くたてて離れる。まだ放心気味。かわいい。
「ふふ、かわいい十神クン」
「……な、な、何を、貴様っ、いきなり」
頬を染める十神クンはかわいい。絶望的にかわいい。いつまでたっても初心だよなあほんとにかわいい。
でも口をごしごし拭かれるのはさすがに傷付くよ十神クン……。
「いきなりって、だって聞いてもやだって言うから黙ってしちゃおうと思って」
「その口を二度と開けなくしてやろうか愚民が。」
もう、かわいくないな。かわいいけどさ。発言がかわいくないよ。でも顔が赤いからかわいいな。
もうどっちでもいいや。
まだ何やら言っている彼の口を塞ぐために、ボクはまた黙って近付いた。
そのやわらかなくちびるをふさいで
「っ!?だっ、だから何故いきなりするんだこの愚民!」
(驚いた顔がかわいいから……なんて言ったら怒るかなあ、怒るよなあ……)
***
絶望的にお題に沿ってない気がする。
十神はお伺いをたててもどうせ断るし照れるし普通に照れてもかわいいんだけど驚いた顔が見たいなっていう苗木の願望から不意打ちという形になる……といいな(希望)
タイトル→揺らぎ