黒籠

□および
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ぱちん、ぱちん、と小さな音が耳にとどく。
目を向けるとまるで試合前のような真剣な目で自分の爪を切っている高尾が映った。
しかも爪やすりまで用意している。どこかのエース様か。


「あんまり見つめないでくださいよー、高尾ちゃん照れちゃう」


そう言いつつ視線は向けられず。相変わらず真顔の高尾は爪を整えている。どこが照れているんだか。
高尾から視線を外して自分の爪を見る。少しのびてきているがまだ放っておいても大丈夫だろう。


「お前も爪やすりとかすんの」

「んー、真ちゃん爪やすりじゃないですか。だからちょっと気になって使ってみたら案外しっくりきたんすよね」


それでずっと使ってるわけか。他人がどう手入れをしようと知ったことではないが、よくそんな面倒なことを続けられるな、とぼやっと思う。
整え終わったらしい高尾がにっと笑みを浮かべてこちらを見た。良い予感はしない。


「宮地さんの爪、俺が整えてあげましょうか」

「いらねえ」

「はやい!」


腹を抱えて笑う高尾にどこが面白かったのか問いたい。
爪なんぞ整える必要はない。爪の引っ掛かりが大事なのだよなんてことはないし女子みたいに綺麗に見せたいわけでもない。
そんなの高尾だって同じだろうに、なんだって爪やすりまで使っているのか理解に苦しむ。


「まあまあ、一回だけやってみましょうよ!結構ハマりますよ」

「よくあるドラッグみたいな勧め方すんな。俺使い方わかんねえし」

「だから俺がやってあげますってー。ほら手え出して」


言っておくが俺は高尾に手を差し出してなどいない。勝手に手首を掴まれ強引に引っ張られたのだ。地味に力強いし。痛いし。
終わったら轢こう。
へらへらと締まりのない顔が一瞬で真剣味を帯びた顔にかわる。


「……なんかお前緊張してね?」

「人のやるの初めてなんで。まあこれで怪我なんて絶対ねえし任せてください」


確かに怪我はしないだろうが。例え整わずとも気にしないしいいだろうと思い、無言で高尾の顔や自分の爪を観察する。
俺の手首を強く掴んでいた手は今や優しく指を支えている。なんだかかゆい、っていうか、ぞわぞわする。
高尾の視線は俺の爪に釘付けだ。その事実を認識したとたんになんだかまたぞわぞわと指を何かが這い上がる。

高尾はバイオリン職人みたいな真剣な瞳で精巧を極めていた。たかが爪に。そんな芸術品を扱うみたいにしなくてもいいのに。


「宮地さん、反対」

「……ん」


声をかけられて反対の手を預ける。整えられた右手にはまだ変な感触が残っていた。
預けた左手にもぞわぞわとした何かが走る。耐え切れずに小さく息を吐いた。すると高尾の手が止まる。


「……?高尾?」

「……宮地さん自覚なし?」

「は?」


高尾の言っている意味が分からず胡乱な顔になる。高尾がやすりを置いて、その手で俺の爪から指までそっと撫でた。また何かが這っていく感覚が疾走する。
指の付け根まで撫でられた瞬間に悪寒と似たものが背筋を駆け上がった。


「……っ、なんだよ」

「ほんとに自覚ないんすか?宮地さん今めっちゃ、」


やらしい顔してる。

まっすぐな視線に貫かれる。高尾の言葉が弾けて、やっと意味を理解した。
熱を孕んだ目がこちらを向いている。


「爪?ていうか指なのかな、ねえ宮地さん、」

「なに、が」

「どこ触られるとやらしい気持ちになっちゃうの」


指に触れ続ける高尾が憎らしい。そんなのお前が一番知っているくせに。
確信した笑みを浮かべる顔が視界に広がった。


「これから俺が爪切ってあげますね」

「ざけんな、っん、う」

「宮地さんやらしー……かわいいけど他の人に触らせちゃダメっすよ」


指だけで気持ちよくなっちゃうなんて知られたくないでしょ?

囁かれた言葉ごとニヤついた顔を殴ってやりたいのに、手は動かなかった。





-END-








***

緑宮にするか高宮にするかとても迷った
これから指ばっかり攻めてくと思う高尾ちゃん
指が性感帯の宮地さんとてもやらしい弄りたい

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