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□(#)もっとあいしたかった
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「シズちゃんなんか嫌い!!嫌い、嫌い、大嫌い!!!!」
臨也はずっと置いてあった自分の荷物を、近くにあった袋にまとめて部屋を飛び出した。
俺は少し唖然とした。
どんなことがあっても泣かなかった臨也が、目の前でさっきまで泣いていたことに。
だが、すぐに追い掛けろと脳が命令をする。
俺はすぐに家を出て、臨也を追いかける。
臨也はもとから足が俺よりも速く、それに加えて今までの戦争喧嘩で俺から逃げていたから、来神のときよりも速くなっている。
だけど、俺も負けじと臨也を追いかける。
だが、さっきから何故かは知らないが胸の辺りがざわざわする。
まるで何かを注意したそうに。
「おい!!臨也!!待てよ!!」
「…………」
だから、俺は大声で臨也の名前を叫び、臨也の逃走を阻止しようとするが、ひねくれ者の臨也は足を止めようとしない。
さっきから、胸のざわざわが大きくなり、収まる気配はない。
なんなんだ。この感じは……。
俺は胸の辺りを鷲掴みしながら臨也を後ろを走る。
すると、臨也は交差点に差し掛かる。
そのまま俺も交差点に入ろうとしたが、前から来る少年とぶつかる。
「っと…!!わりぃ、大丈夫だったか…?」
少年に謝り、立たせる。そのまま、少年は立ち去り俺もその場から立ち去ろうとしたときだった。
遠くの方から女の悲鳴と共に自動車のブレーキ音がする。
まさか、と思って、周りを見渡す。
臨也の姿がない。
いや、違う。あいつは逃げたんだ。もう交差点を渡りきって逃げてるにきまってる。
そう思いたいのに、何故か足は現場へと向かう。
一歩、また一歩と次第に自分と事故をした車の距離が近くなる。
あぁ、これは悪い夢かなにかか…?
車の周りにはよく知った服や日用品が散らばっており、数メートル先によく知った人物の影がある。
「嘘だよな…?」
フラフラした足取りのまま、数メートル先にある人物の元へと向かう。
「おい。臨也、なんでそんなとこで寝てんだよ…」
「……シ……ちゃん…?」
俺はしゃがみこみ、臨也を抱き上げる。
すると、臨也は弱りきった手で俺の頬を触ってくる。
「……は、は…。池袋…の喧嘩人…形が…なに……泣い…てるの……?」
見るに絶えない姿になった臨也が笑う。
「……目にゴミが入ったんだ…」
「…は、は…。ざまぁ…みろ、だな…」
いつもの嫌みな笑顔でいってくる。
実際俺は泣いていなかった。
まだ現実を受け入れたくないからだ。
だが、臨也が泣いていると感じたのは、臨也の手が自分の血で濡れていたからだ。
俺の頬には、臨也の血がついた。
崩れ落ちそうになる臨也の手を掴む。
すると、臨也は一瞬驚くが
すぐに微笑んだ。
「……シ…ズちゃ…ん…。嫌い…だ…なんて……嘘……だよ……。本…当…は、すごく……大…好きだ……よ…」
「……俺もだ…」
俺の言葉を聞いた臨也は、嬉しそうに微笑みながら、静かに手を頬から離す。
あぁ、もっと愛してやればよかったな。
もっと好きだと言ってやればよかったな。
もっと抱き締めてやればよかったな。
もっと一緒に出掛けてやればよかったな。
だが、もう後悔しても遅かった。
もう臨也は居ない。
好きも愛してるも抱き締めるのも出来なくなったのだ。
神はなんて残酷なんだ。
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