理由と結果

たとえどんな場所に住んでいても、どんな環境にいても怒らない人間なんているはずがない。
それは自信を持って言える。
人間、必ず怒りを感じる。それをどんな形にするかが違うだけだ。

僕は今、自分を誉めたい。

自分の我慢強さを。忍耐力を。
今すぐ目の前の彼を殴りたいと思っているのに、精神力でそれを耐えている自分自身を、誉めたい。

 * * *

「哀川君。君に問いたいことがあるんだが」
「何?」
「君は何故毎週金曜だけ遅刻してくるんだ?」


理由と結果


金曜日は、正直言って疲れる。
金曜の朝は、風紀委員の当番だ。
校門前に立ち、遅刻者をチェックする。
簡単な作業のはずなのだが、一人一人に見逃してくれと怒鳴られたり泣き付かれたり、正直相手にしたくない。
しかもメンバーは毎回同じ。学習能力がないのだろうか。

そして、最近メンバーが増えた。

「哀川君、これで何回目だと思っている?律儀に金曜日だけ遅刻する理由を、200文字以内で述べてくれ」
「金曜だから」
「………」

理解不能だ。
今に始まったことではないのだが。

何度聞いても理由は「金曜だから」。普段通りの無表情、本気なのか嘘をついているのかすら解らない。
はぁ、と溜息をつく。
「…来週は遅刻しないでくれ」
毎週金曜、恒例のやりとり。先週と同じく哀川君はこくりと頷いて歩いていった。

 * * *

昼休み。
昼食は毎日一人で食べる、はずなのだが。
「…哀川君、ここはF組じゃないぞ」
「知ってる」
「何故此処にいるんだ」
「昼飯食べる為に」
「何故わざわざ僕のクラスまで」
「金曜だから」
「………」

 * * *

哀川君は、かなり多忙な生活をおくっているらしい。
僕が知るかぎりでも陸上部に美術部、同好会にも参加している。そして勿論、生徒会。
他にも活動があるはずなのに、彼は金曜日は必ず生徒会に顔を出す。
定例会にはまだ時間があるので、気になっていることを聞いてみることにした。
「哀川君…部活や同好会の活動はいいのか?」
「あぁ」
「…君は多忙だろう。生徒会への参加は時間が空いた時だけでいいんだぞ」
「んー」
「……部には出なくていいのか?」
「だって、今日は金曜だから」

僕は今日、機嫌が悪かった。
朝は哀川君含める遅刻者達のお陰でHRに遅れ、昼休みは哀川君が去った後にクラスの女子に囲まれ質問された。
ついでに、あの教師の体育もあった。
だから少し、機嫌が悪かったのだ。

「何なんだ君は!? 何かあれば『金曜だから』…理由になってないじゃないか!嫌がらせのように毎週僕に構ってくる理由を言え!!」
思わず怒鳴ってしまったが、哀川君は顔色ひとつ変えなかった。
それどころか、たまにしか見せない笑顔で、こんなことを言ったのだ。

「金曜は、小田桐のために使う日だから」

「………は?」
僕の声が静まり返った生徒会室に響く。勿論、他にも生徒はいた。ただ、僕と同じく哀川君の発言の意味が解らなかったらしく、皆興味津々という顔でこちらを見ている。

「好きな奴が、俺の事守ってくれるらしいからさ、俺だってそいつの事守ってやるべきだろ?」
「ーーーッ…!!?」
「その為には週に一日くらいはずっと一緒にいないと…な、小田桐?」

…まさか、そんなことを考えていたなんて。
今までの金曜日を思い出そうとして、
僕はやっとで、生徒会室のざわめきに気付いた。人数の倍の数の好奇心に満ちた瞳が、僕と哀川君に向けられる。

予想外の言葉に驚いてしまったが、ここは生徒会室。人前。
やっとで思い出す羞恥心、顔が熱くなるのを感じる。

「あ…哀川君!!君は、一体何を言い出すんだ!?」
「本当の事だろ?」

滅多に見せない、満面の笑み。
確信犯、そんな言葉が頭をよぎった。

ー殴りたい。
そんな思いを理性で押さえ付ける。そして、我慢強い自分を誉めながら今とるべき行動について考え…

勢い良く立ち上がる。椅子がガタンと大きな音をたてて倒れた。
向かう先はただ一つ、言わずもがなドア。
ガラリと戸を引いてそのまま廊下を走る。

あのまま生徒会室に居ても、事は悪い方向にしか向かわないのは分かり切った事だ。
だったらあの場で恥をかくよりも、一人で落ち着ける場所で今後どうすればいいか、どう説明すればいいか考えた方が良いに決まってる。

これは戦略的撤退だ。

決して、赤くなったまま戻らない頬のせいではないのだ。
自分に言い聞かせて僕は走る。頭から離れない彼の笑顔を消し去りたくて、ただひたすらに走った。



ー翌日、彼が学校で自身についての噂を聞き、2年F組に人を殴りに行くのは、また別のお話。



某S様への捧げもの。
一応、リクエストはギャグでした。サイト名の理由も入れてみたり。


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