short

□雨にうたう
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雨が好きだと言ったら私を見てつまらなさそうに口元を引き上げた。
仁は晴れているとどこかへ消えて行くけど、雨だと必ずこの部屋にやって来る。
理由を聞いても黙って答えてくれなかったけど、本当は聞かなくても知っている。


「今日は晴れてるのに珍しいね」
「邪魔か?」


大きく首を横に振る。
仁は煙を吐くと、その行方を追うように窓を見た。
窓の外からは賑やかな声がする。
晴れている日はいつもテニスコートに集まった学生が元気良く練習をしている。
仁は急に立ち上がると窓際に立ち、空を見上げた。


「雨が降るぞ」
「え、嘘。困る」


急いで立ち洗濯物を取り入れ始める背中に仁の気配を感じた。
鍛えられた腕が腰に回り、洗濯物を落としそうになる。
後ろをうかがうと仁の視線は今だにコートへ向けられていた。


「すればいいのに、テニス」
「…許されない」


その声はいつもよりほんの少し低くて切なさを帯びていた。
誰も責めていないのに誰に許しを請うのか。
決して外されることのない視線は愛するかのように熱いのに。


「もう戻れない」


視界を奪うほどのスコールが彼の戒めを洗い流してくれればいいのに。
重ねた手が血の気を失うほど強く握り締められた。





20071116

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