53−1
□LOVE's LOVE
1ページ/3ページ
チュンチュンと、小鳥のさえずりが聞こえた。
それまで手放していた意識をしっかりと掴み、夢の世界から脱却した悟浄は。
マルボロ特有の香りが漂って来ていることに気付いて、瞼を開けないままに口を開いた。
「さんぞー……」
寝起きの為に、若干枯れた声で呼びかける。
仰向けの態勢で、乱れた自分の髪を指で梳いて枕の上に流した。
「俺のも点けてー」
「テメェでやれ」
返ってきたのは、気の籠らない声。
どうせ新聞の活字を追いながら、こっちを振り向きもせずに答えたんだろう?
そう思い描きつつ眼を開けて首を傾ければ、想像した通りの光景がテーブルにあった。
「いーじゃん、そんくらい。そんで〈おはようのちゅー〉して?」
軽く笑いながら言ってみれば、振り向いてきた眼はそこそこ冷たいもので。
「おはようの〈焼き〉入れてやろーか?」
眼鏡の奥で不穏な光りが見えて、悟浄は溜め息をついて身体を起こした。
(ツレねーヤツ……)
つい先日、告白した。
自分だけが想いの大きさに悩んでいると思っていたら、三蔵もどうやら同じだったみたいで。
晴れて両想いになり……そこまでは良かった、のだが。
何ら変わらない日常。
三蔵も今までと同じように大方無関心で、怒ればハリセンや銃弾を飛ばし、相変わらず眉間にはシワが寄る。
人間なんて、そんなに簡単に変われるものではないとは思うのだが……。
でも〈恋人〉なんだし、もーちょいラブラブな雰囲気になってもいんじゃね?というのが悟浄の意見。
まぁ、話しかければ返ってくる声音が少しだけ優しくなった……気がするし、表情もどことなく柔らかくなって、ふと見せる笑顔に胸が熱くなることもある。
それでもまだ、三蔵の口から〈好き〉などという台詞は聞いたことがなかった。
恥ずかしがっているのは丸判り。
(あー、ヤベ……マジで惚れてンのな……)
三蔵の気持ちが聞きたいと思うのは、当然の感情なんだろうと思う。
ベッドから立ち上がり、三蔵の背後に立つ。
相変わらず新聞片手に、揉み消した煙草と入れ替わりにコーヒーカップを持ち上げる三蔵。
「三蔵」
「何だ」
「俺のコト……好き?」
背後から抱き締めた腕に、軽く力を込める。
すると、こういうのに慣れていないせいか、すぐ振りほどこうと身を捩り出した。
それを逃さず一段と強く抱き締めると、三蔵は諦めたらしく、深い吐息を吐き出した。
.