53−1

□bitter tonight
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真っ黒な空から降ってくるのは、雨じゃなかった。


音も何もないと思っていたら、雪で。


道理で寒い訳だ。


足先まで冷えるようで、布団に潜って丸まってみる。


温まるまで、まだ時間がかかるらしい。


(……寒ィ……)


これまでの人生、今夜みたいに寒い夜は、どうやって凌いでいただろうか?


酷く曖昧で、何も浮かんで来ない。


脳味噌まで凍り付いた?


そう思ったら、何だか笑えた。


布団を目元まで引き上げる。


自分の呼吸で、息苦しくてもがいて顔を出す。


そしたら、冷えた空気に鼻が痛くなって。


……悪循環。


(何やってんだ、俺は)


とっとと眠りに就きたいのに、夢魔は簡単には襲ってくれそうにない。


キィ……。


ドアが開いた音がして、首を傾けて見てみる。


紅い髪が、闇に揺れた。


「お♪ 起きてる?」


……うぜぇ。


「失せろ」


わざわざ布団から出て、威嚇する気にはなれなかった。


「酷ぇなぁ。震えてンじゃねーかって、心配して来てやったのに」


……うぜぇ。


「テメェに心配される程、墜ちちゃいねーよ」


とっとと帰れ、クソ河童。


「じゃあ……八戒と暖まってこよーかなぁー♪」


喧嘩、売られてんのか?コレは。


「冗談」


「知るか」


「とりあえず、付き合ってよ」


カン……。


眼をやると、ミニサイズのビール瓶が数本。


河童の両手、指の間に挟まれて揺れていた。


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