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□bitter tonight
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真っ黒な空から降ってくるのは、雨じゃなかった。
音も何もないと思っていたら、雪で。
道理で寒い訳だ。
足先まで冷えるようで、布団に潜って丸まってみる。
温まるまで、まだ時間がかかるらしい。
(……寒ィ……)
これまでの人生、今夜みたいに寒い夜は、どうやって凌いでいただろうか?
酷く曖昧で、何も浮かんで来ない。
脳味噌まで凍り付いた?
そう思ったら、何だか笑えた。
布団を目元まで引き上げる。
自分の呼吸で、息苦しくてもがいて顔を出す。
そしたら、冷えた空気に鼻が痛くなって。
……悪循環。
(何やってんだ、俺は)
とっとと眠りに就きたいのに、夢魔は簡単には襲ってくれそうにない。
キィ……。
ドアが開いた音がして、首を傾けて見てみる。
紅い髪が、闇に揺れた。
「お♪ 起きてる?」
……うぜぇ。
「失せろ」
わざわざ布団から出て、威嚇する気にはなれなかった。
「酷ぇなぁ。震えてンじゃねーかって、心配して来てやったのに」
……うぜぇ。
「テメェに心配される程、墜ちちゃいねーよ」
とっとと帰れ、クソ河童。
「じゃあ……八戒と暖まってこよーかなぁー♪」
喧嘩、売られてんのか?コレは。
「冗談」
「知るか」
「とりあえず、付き合ってよ」
カン……。
眼をやると、ミニサイズのビール瓶が数本。
河童の両手、指の間に挟まれて揺れていた。
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