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□月光
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月明りで、青く滲む部屋。
古びたベッドの上で黙って紫煙をくゆらす悟浄は、ぼんやりと窓の外を見上げていた。

黒というより、藍に近い夜空。
その中心にぽっかりと浮かぶ満月は、昨日より僅かながら大きく見えた。
薄い青の輝きを紅い瞳に刻み込み……フッと笑う。

片足を折って座る足元に置いてあった、アルミの灰皿にトン、と灰を落とす。
そのまま横へと視線をずらせば、静かな寝息に小さく上下する躰。
纏うシーツからはみ出た肌は、青白い月明りに照らされて……満月と同じ色。
冷たくも優しい、愛しい姿。

最初の頃は寝顔さえ見せてもらえず、背を向けて丸まるように眠っていた。
だが今は、何の警戒心もなく表情を晒してスヤスヤと眠っている。
他の2人には、決して見せない……見せたくない安らかな顔。
長い睫毛も、高く通った鼻筋も、うっすら開いた紅色の口唇も。


(……俺だけのもの……)


いつまでもこのままで、ずっと見つめていたい。
そう思うのは、我が儘なのだろうか?

ただのツレから仲間になり、その目眩いばかりの綺麗な意志と姿に心奪われ。
慣れない愛を囁き、壊れないように手厚く抱き寄せ……。
不器用ながらも、触れ返してくる指先が優しくなった。
心を、預けてくれている。
自惚れなんかじゃ補いきれない、想いの変化。


〈愛しい〉


その一言で片付けてしまうには、あまりにも眩しい光り――
端整な顔にかかる金糸を、そっと払い除けてやる。


「ン……」


鼻にかかる吐息で微かな声を漏らし、身動ぎをする。
眼に届かない方へと向いてしまうのかと思っていたら、暖かな長い指先が、シーツに突いていた悟浄の手に触れた。
腕を浮かせ、優しく包み込んでみる。
すると、指を絡めてきて――


「……ご、じょ……」


小さな、声。
それからすぐに、また寝息が聞こえ始めた。


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