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□bitter tonight
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……仕方ねぇ。


身体を起こして布団を蹴り払うと、少し温もりかけた体温が一気に奪われた。


それを補うように、河童の手からビールを抜き取って、煽って。


苦い炭酸が、シュワシュワと胃に墜ちていく。


河童は引き出していたままの椅子に座って、同じようにビールを煽った。


「……なぁ」


「なんだ」


「……何でもない」


「意味もなく呼んでんじゃねー」


ハハッと笑う。


空き瓶が、テーブルに増えていく。


いつの間にか身体が火照ってきて、頬がジンジンしてきて。


「……なぁ」


「なんだ」


「……寝れそ?」


微妙な顔で、笑ってんじゃねーよ。


「それ呑み切ったらとっとと帰れ」


ハハッと、また声を出して笑って。


一気にビールを飲み干した。


「んじゃ、オヤスミ」


……ちょっと待て。


「――おい」


振り返った眼が、何か……期待してて。


バカが。


「それ、片付けていけ」


丸くなった眼が、苦笑に細くなった。


「はいはい」


カン。


カン……。


ドアが閉まると、静けさが耳についた。


少し乱れた動悸が、酷く頭に響く。


ベッドに横になって、布団を被る。


さっきまで寒かったのに、今度は熱くて。


……バカが。


「変に期待してんじゃねーよ」


馬鹿馬鹿しくて、何だか笑えた。










――余計、眠レナイ。



END
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