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□LIMIT BREAK
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昨晩辿り着いた小さな街は、険しく高い岩肌に囲まれるようにして存在していた。
西へと向かう道であったのだが、そもそも正規の通りではないらしく……旅人などはたまにしか通りかからない街だと聞いた。
だがそれが幸いして、こじんまりとした宿に個室を取れた三蔵一行は、それぞれ部屋に引きこもって夜を明かし、迎えた朝。
といっても、既に10時を回っていたが。

カーテンを開け放した窓から射し込む陽射しは、直射ではないが暖かで。
のどかな静けさに満足しきりの三蔵は、先程八戒が運んで来たコーヒーを飲みながら、新聞の活字をのんびりと追っていた。
そんな時。


コン。コン。


ゆったりとしたタイミングでノックされたドア。
悟空なら応答など関係なしに勝手に入ってくるだろうし、八戒ならノック後に一声かけてくるだろう。
宿の関係者も然り。
しかし、ドアを叩いたきり何の音も聞こえてこない。
せっかくの安静な時間がなくなる……そう思いながらも、三蔵は眼鏡を外した。


「何だ」


キィ……と開いたドア。
そこから姿を見せた悟浄が、三蔵を見てニッと笑った。
何の用だと問う前に。


「三蔵、デートしよ?」


突然の言葉に、三蔵は目を丸くした。


「は?」
「耳まで悪くなったのか?」


苦笑を滲ませる悟浄に、険しい表情を向ける三蔵。
デートだ?


「……沸いたか?ι」
「何言ってンの。晴れて恋人同士になったんだし、デートぐらいフツーだろ?」


三蔵が、驚きに染まった顔を背けた。
聞こえた<恋人>という言葉に、まだ慣れていないらしい。
少し紅くなった横顔を見つけて、悟浄が笑う。


「なぁ、行こーぜ?」
「………………」


行くのは別に構わない……とは思った。
最近サボっているのか、大した数の妖怪の襲撃はない。
移動はジープ一本だし、運動不足で、身体を動かすことが億劫で仕方ない三蔵ですら、たまには散歩ぐらいしたいと思う程だった。
だが悟浄と一緒となると……あの2人の存在がウザい。
八戒は人の良さそうな顔をしながら冷やかしてくるだろうし、悟空はついてくるなどと言うだろうし。


「あ、もしかしてあの2人のコト気にしてる?」


ソワソワして煙草に火をつけた三蔵の心を見透かして、悟浄が聞いてきた。


「平気だって。ちぃとばかし、長い買い物に出てもらったからサ」
「お前は……ι」


こーゆー時の用意周到さには、本当に感心する。
もちろん、いい意味ではなかったが。


「な?」


舌打ちした三蔵の側へと寄り、その手から煙草をひったくる悟浄。
自分も一口吸ってから、灰皿に揉み消す。
そして、戸惑っている三蔵の手を引いて部屋を出た。





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