53−1

□kiss mark
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「おはようございます、三蔵」


朝。

昨晩の情事のお陰で痛む腰を引きずり、それでも他人には悟られないように、平然とした表情で訪れた隣りの部屋。
八戒は当然のこと、珍しく悟空も起床していたのだが……。


「……何やってんだ?」
「見て判りません?散髪です♪」


部屋のど真ん中。
椅子に座っている悟空の肩には、白いタオルと大判のビニール袋が巻き付いていて。
その背に立っている八戒の手には、銀色の細身のハサミとクシが握られていた。


「だいぶ伸びてましたからねぇ」


言いながら、目は悟空の後ろ首を見つめてクシを通していく。


「三蔵も切ってもらえば?結構伸びてんだろ?」
「俺はいい」


椅子に座り、新聞を広げながら素っ気なく答える三蔵。


「悟浄はまだ寝てるんですか?」
「知るか」


同じ一室で夜を明かし、部屋を出る時にもその寝顔を見ては来たが。
この2人にあまり親密な関係と思われるのが嫌で、ついそういう言い方をしてしまう。
もっとも、八戒にはそんな感情などお見通しのようだったが。


「そぉですか」



三蔵が袂から取り出した煙草を唇に挟み、火を灯す。


(確かに……伸びたな……)


紙面に目を落とした時、以前よりも長く視界に紛れた金糸の髪。
活字を読んだり照準を合わせるのに不都合なことはないが、少し気になってしまった。


「八戒」
「はい?」
「髪縛るものあるか?」
「えーと……確か悟浄が使ってたのがあったはずですけど……」


悟空に向けて「ちょっと待ってて下さいね」と放ち、部屋の隅に置いていた荷物をあさる。


「うーん、と………………――あ。」


目当てのものを発見したらしい八戒が、テーブルまで歩み寄って三蔵に差し出す。


「これでいいですか?」


手のひらに置かれた、緋色の髪紐。
悟浄と意識を通じてから、好きになった鮮やかな色――


「……ああ」


フィルターを口の端に咥え、顔にかかる髪を後ろで束ねる。
巻き付けるようにして括り付けると――


「おや……」


背後で声を上げた八戒。


新聞を取り上げた三蔵は、何事かと振り返った。


「何だ?」
「いえ……珍しいなと思いまして」
「だから何がだ?」
「目に付く所に、くっきり付いてるのが、です」


いやに爽やかな笑顔が向けられた。
何がだ?と怪訝そうに目をすがめた三蔵は――そこで、はたと気が付いた。
昨夜、悟浄の唇が触れた――


「っ!!///」


瞬時に耳まで真っ赤になり、バッと首の後ろに手を当てる三蔵。
その遅過ぎた行動に、八戒はクスクスと笑った。


「髪括らなければ見えないのに……そんなに惚気たかったんですか?」
「ちがっ――」


ガチャ。


唐突に開かれたドア。
室内に一歩踏み込んだ悟浄が、その場の雰囲気に違和感を感じて止まった。


「……あら?何かあった?」
「やだなぁ、悟浄」
「は?」
「あんまり見せつけないで下さいよ」
「……は……?」


何がだ?と聞きかけて、たまたま目に止まった――三蔵。
髪を縛り、首に手を当て、真っ赤になって固まっている姿を見て。










「……あはっvV」
「あはっvVぢゃねえわこのクソ河童があああっっっ!!!!」


ガウン!! ガウン!!


「だから止めろっつっただろぉがっっ!!」
「落ち着け三蔵!!ってかお前が髪括んのが悪ィんだろっ!!」


容赦ない銃弾が室内を飛び交う。
明らかに怯えて、椅子から立ち上がる悟空。
アハハと楽しそうに笑う八戒。
そんな2人の側までも、冷徹な銃弾は駆け抜けた。


「ちょっ――何でオレまでっ!?ってか何があったんだよっ!?」
「さっ、三蔵!!僕まで狙わないで下さい!!」


本気で狙っているらしく、空気になびく紅い毛先や、首に巻いたままのビニールの端、緑色の服の裾を掠め過ぎていく銃弾。
逃げ惑う3人に慎重に狙いを定めながら、三蔵は赤面したまま片手で髪紐を勢いよく解いた。


「うるせえてめえら全員死ねっっ!!!!」


ガウン!!



END(笑)
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