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□月光
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どうして、こう……想いを掻き立ててくるのだろう。
愛し方もろくに知らなかった心を甘く溶かし、翻弄して……それでも足りないと言うように、追い詰めてくる。

躰で応えることは、簡単だと知っている。
でもそれだけじゃ満足しないんだろう?


(俺も、まだ足りないんだ)


身も心も……その柔らかな口唇から漏れる吐息ですら、奪いたいなんて。


「……愛していい……?」


飽きるくらい、強く、強く。


「奪っていい……?」


お前の全てを。


「……愛してるんだ……」


俺は、お前を……。


「……ん……?」


ゆっくり開いた瞼。
濃い紫暗が、ぼんやりと悟浄を映す。


「……何か……言ったか……?」


ふわふわとした夢の淵で、うわ言のように聞いてくる。


「何でもねーよ」


少し照れくさそうに笑って、悟浄は短くなった煙草を揉み消した。
灰皿をベッドボードの向こう側へと置き、シーツに潜り込む。
腕を引っ張られて、金糸の下に通す。
2つの躰が向かい合って転がり、額が触れた。


「なぁ…………………………愛してる?」


瞼を閉じて、消えた紫暗。
空いた手と手を重ね合わせ、少し力を込める。










「あい、し……て…………?」










まどろみに捕らわれた声が、途切れた。





どうしてこんなにも……。





月は、綺麗なんだろう――


END
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