近距離恋愛

□近距離恋愛
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簡単には強くはなれないかもしれないし、すぐに怖くなくなる訳じゃないとは思う
だけど、少しでも今より進めたのなら私はもしかしたら少しは強くなれるのかもしれない
強くなれたら6年の止まっていた時間も無駄ではなかったと思える気がする

「私も、少し変わるべきなのかもね」

「え?」

不思議そうにこちらに顔を向けた縁に私はにこりと笑いかけた
私が笑いかけると縁はいっそうに不思議そうにしていた

「もう少し前向きになりたいなってこと」

「前向き……そっか。うん。じゃあもう寂しそうに笑う美咲のこと見なくて済むのかな」

「え?」

「いつもじゃないよ。だけど時折ね、寂しそうだったから……寂しそうに笑うから気になってたんだ」

歩いていると駅について繋いでいた手を縁が離した
そして私と縁は改札を抜けて駅のホームに向かう
だけど離れた手が再び繋がれる事は無かった

「でももう見なくて済むんだね。よかった」

「心配かけてたんだね。ごめんね」

「美咲が謝ることじゃないよ。私が勝手に気になってただけだから」

ホームに立って少ししてから電車が到着して私と縁はそれに乗り込むと席がちょうど空いていて二人でそこに座った

「美咲にはさ似合わなかった。寂しそうな顔なんてして欲しくなかった」

6年ずっとねと縁は言った
縁とは梓と別れてからずっと一緒に居たから、だから私の6年に、私に一番近い人
6年は長いって自分で言ったけど、そんな長い間私は縁に心配をかけていたんだとわかったら申し訳なくなった

「でも、もう見なくていいならいいんだ」

「すぐには無理かもしれないよ」

自分で前向きになんて言ったけど、すぐに戻れるなんてことできるかわからない
少し時間がかかってしまうかもしれない、その間にまた縁に心配をかけてしまうかもしれない

「うん。美咲のペースでいいと思う。気になってるのは私の都合だから気にしないでいいんだよ」

どうしてこんなに縁は優しいんだろう
優しくて、心が温かい人
私は縁のこういう人柄が好き

「縁は優しいね。私にはもったいないほどな友達だよ」

そう言って縁の横顔を見ると縁もこちらに顔を向けた
そして目が合うと縁は一瞬ふっと表情を暗くした

「縁?」

その表情に引っかかりを感じた私はじっと縁の目を見た

「……お腹空いたねー今日はチンジャオロースが食べたいなー」

縁はニコリと笑ってお腹空いたーと言いながら自分のお腹をさすっていた
だからそれを見て私はくすりと笑ってしまった
だってさっきの何だか真剣な雰囲気が一瞬でなくなってしまったから

「今日は中華なの?」

「そう今日は思いっきり脂っこいものが食べたい。あ、餃子もつけてね」

パリパリのはねつきでお願いします。なんて言われて私はうんと返事を返す

「泊まってく?」

「うーん。遅くなりそうだし泊まろうかなー」

「うん。あ、シャンプーなくなりそうだったんだ。帰りに買わなきゃ」

「そーいえば歯磨き粉もなくなりそうだったよ?」

「本当?じゃあ一緒に買わなきゃ」

そうだねーとさっきの暗い顔なんて気のせいだったかのように普通な表情の縁と話しながら私は何だかリラックスしていた
こういう普通な会話って特別でもなんでもないけど近しい感じがして好きだなって思う
どうしてこんなに縁って人を落ち着かせることや、気づいたらすっと普通に隣にいてくれるのが得意なんだろうって思った

「縁は癒し系?」

「は?何いきなり」

「だって私縁に癒されてるから」

「ほうほう。じゃあ帰ったら存分に癒して差し上げよう」

そう言って縁はニコニコと笑った
そして私はその笑顔を見ながら期待してるねと縁に言って自分も縁に笑いかけていたのだった
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