飲ませないで!!

□飲ませないで!!‐遥‐
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午前10時
私はかなり緊張したまま主任が住んでいるマンションの部屋の前に立っていた
綺麗で立派な造りで、何だか主任に似合っている
何か家賃とか高そうだもんなぁでも主任は綺麗なところじゃないと嫌とか言いそうだもんなぁ

主任とお付き合いする人は大変なんだろうなぁ……あ、それ私のことか

駄目だ……そう思うと緊張し過ぎてインターフォンが押せないっっ
今日のデートは無事に終わるのだろうか?
いや終わる気がしない
どうしよう、どうしよう、段取りが悪くて怒らせたりしない?
だって絶対主任そういうのなれていそうだし、きっと私なんかよりエスコートが上手い人としかデートしたことないだろうし

ああっ経験がないのが恨めしい
どうしたらいいのかてんで想像ができないんだもんっ

「ねえ。あなたうちに何か用なの?」

インターフォンに人差し指を触れさせたまま固まっていたら後ろから話しかけられた
声は高い、女の人の声。でもうちって?この人の声と主任の声は違うのに

「あ、す、すいません」

私は急いで指を離し後ろに体を向けた

「あのここ内藤――」

後ろを向いて、そこに立っている人を見た瞬間私の目は閉じなくなった

「あ」

後ろに立っていた人の目も大きく見開いている

ニットカーディガンの下にはホワイトタンクトップとホワイトショートパンツを着ていた
足元はヒールが高めのベージュのサンダル

すっとしていて整っている体
肩くらいの長さの髪は明るめのベージュで染められていてゆるくウエーブしていた

顔は綺麗な人だと思う
大きな目は色素が薄めの茶でまつげも長くてぱっちりとしていた
でもフェミニンな感じできりりとしているのに女性らしい

そう主任と似ていると今更思った
にじみ出る肉食感とか……凄く似てる今さらだけど
でも、苗字は違うし……じゃあどうして
いや今はそんなことはどうでもいい!!

そしてそう思った瞬間私の足はジリジリと出口に向かって移動して一気にダッシュしていた

「あ、ちょ逃げるなっ!!」

でもダッシュしても後ろから駆けてくる足音が聞こえてきた

「ご、ご、ごごめんなさいっ!!お願いだから追ってこないでくださいいっ」

私からは情けない声しか出ない
主任との約束があるのに今は逃げるしかない
あとで怖いだろうけど今も十分私にとっては怖いのだ

エレベーター前について、指でボタンを連打する
でもエレベーターは中々降りてこない
だから私は首をキョロキョロと動かし階段を探した、すると横の方にあった

「逃げるなっ!!ハル!!」

後方からの声に私は迷いもなく階段へ向かう
そして手すりに手をつきながら高速階段降り

でも後ろからもタタタと降りてくる音……怖い

「お願いです逃げさせください!!私のことは見なかったことに!!」

「できるか馬鹿っ!!私が出張中に勝手に会社辞めて行方くらまして……探したんだからっ!!」

「だ、だって」

「しかもメールも電話も無視して!!」

「だって、だって杏奈(あんな)さんの、その呼び出しはいつも強引で」

「そうしないと来ないでしょう!?」

「だ、だって」

「もう!!うるさい止まれ!!」

こ、怖いいい
この人、前の会社の上司だった今村 杏奈(いまむら あんな)さん三十路女子
私が逃げてから何も変わっていない
私は過去に押しが強いこの人から勇気を出して逃げたことがあった
昔から強引な人だった……今もそれは健在だけど
ああ私はどうしたらいいのか
今逃げたって無意味な気がするけど、でも逃げないとまた捕まる
捕まって、また自分の意思とは違うことになるのは嫌
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