近距離恋愛

□近距離恋愛
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梓が私のマンションに来てから翌日
私は梓に会ったのに落ち込むこともなく、それどころか知らなかったことが知れたおかげで
少し自分の中のモヤモヤがなくなっていた
梓が私のこと嫌いだから何も言わないでいなくなった訳でもなくて逆に6年も私のことを思い続けていたという事実は
私のモヤモヤを間違いなく消してしまった

でも、梓の気持ちがわかっても私はまた梓と復縁をしようって簡単には思えなかった
梓のことは嫌いではない、でもやっぱり置いて行かれた、その事実も私の中では変えようがない痛みだった

「美咲」

デスクに座ってPCに向き合っていたら横から声を掛けられていた
だから私は、はっとしてその声の方に顔を向ける
すると上着を着て肩にバックをかけている縁が立っていた

「仕事終わった?もう皆帰っちゃったよ」

そう言われて私は腕時計を見ると時刻は21時を過ぎていた
全然気づかなかった、時間も気にしないでずっと仕事をしていたなんて

昔から何かまとまらないことがあると違うことをして、まとまらないことを考えないようにしていた
だから時間も気にしないで仕事に打ち込んでしまったのだろう。自分の悪い癖だと思う

「あ、うん」

「そっか。じゃあ帰ろう」

うんと返事を返しながら私はPCの電源を落とし上着と荷物を持ってイスから立ち上がった
そして縁の横に立って並んでオフィスを後にする

「縁待っててくれたの?」

「んー期限まだだけど終わらせないといけない仕事があったからね。待ちながら終わらせちゃった」

「そっか。ありがとう待っててくれて」

「いいの、いいの。一緒に帰りたかっただけだから」

「私と?あ、もしかしてお腹空いてるの?」

私と帰りたいってことはご飯食べたいのかなって何となく思った
私も縁もひとり暮らしだし、うちと縁の家近いから縁が泊まりに来るとき以外でも
縁がご飯食べたいと言ってくれれば作ってたから

「そうなのよ。美咲の手料理が食べたくてって……違うから」

凄く食い意地張ってるようにしか聞こえないからやめてーっと縁に言われて私はクスリと笑ってしまった
だって心外だと少し恨めしそうに私を見ている縁が可愛くて

「私が美咲のこと待ってたのは違う理由」

「どんな理由なの?」

「朝から何だか少しいつもと違ったから。何かあったのかなって」

会社から出て歩道を歩きながら縁は私の手を握ってきた
でも縁の目線は下がっていて、私には縁の様子がいつもと違って見えていた

「縁こそどうしたの?何だか浮かない顔だね」

「美咲がいつもと違うから、だから、心配で……またあの梓さんが来たのかなって」

縁は本当に優しいと思った
自分のことじゃない私のことなのに、私と梓のことを心配してくれるなんて

「そっか。うん。あのね昨日梓来たんだ。それでね二人で話したの」

私がそう言った瞬間握られていた手に力が入った
強く握られて、どうして縁はこんなにも心配してくれるんだろうと
どうして私のことなのに縁まで表情を辛そうに強張らせるのだろうって思う

「6年間梓が何をしていたのかとか、どうして私に何も言わないで留学してしまったのかとか教えてもらった」

「そっか……」

「知らなかったことを知れて私の気持ちも何だか少しだけ晴れたのかもしれない」

だから様子が違ったのかもと縁に言ったら縁はそっかと小さく呟いた

「美咲は梓さんとより、戻すつもり?」

目を伏せている縁の横顔は何だかとても痛々しく私の目に映った
もしかして凄く心配をかけてしまったのかな?

「わからない。私梓のことが好きなのか、また好きになるのかもわからないの」

梓にはゆっくりでいいからまた好きになってと言われたけど、簡単にまた元のようになれるとは思えなかった
でも時間をかけて、また一から関係を作っていけたのなら、もしかしたらまた好きになるのかもしれない
だけど、そんなこと確定しているわけでもないし、この先どういうふうになるのかが全然私には見えなかった

「梓はね6年で変わってて、ゆっくりでいいからまた自分のこと好きになってって私に言ってくれたの」

そんなセリフ言われるとは思ってもいなかった
だからいざそう言われると、どうしていいのかわからなくって少し混乱

「6年って長いんだね。私の知らない梓が目の前に現れて改めてそう思った」

6年確かにその年月で色々なことを経験する
私だって色々その6年であった。でも、気持ちではきっと私はずっと止ってしまっていた

もう止まっているべきではないのかもしれない
知らない梓を見て私はそう考え始めていた
梓のことをまた好きになるのか、ならないのか、それはわからないけど
自分の殻に閉じこもって、傷つくのを恐れてばかりではいけない、そう思い始めていた
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