反対な彼女

□反対な彼女−未来−
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17:30分
残業にもならず、何か用を頼まれることもなく無事に今日の仕事が終わった
こんな時間に終わるなんて珍しいけど今日はタイミングよく終わってよかった

今日は和さんとの約束がある

冗談交じりで言ったことを本当にやってくれるなんて思わなかったけど言ってみてよかった

朝だけでは正直時間が足りなかった
もっと彼女と話がしたい
もう少し彼女を知りたい

あまりに知っていることが少なさ過ぎる

名前に現住所、玉子焼きは甘いほうが好き、出社時間、
あわてた顔、恥ずかしそうな顔、笑った顔、眠っている顔

泣いた顔

もう彼女は落ち着いただろうか?

朝彼女が、私に付き合っている人の話を振ってきたときは内心慌てていた
もし不用意なことを言って彼女に昨夜の事を思い出させてしまったらどうしようとか
だから話をそらすために料理の感想を求めたりした

さて、今夜はどうしようか?普通自然な会話の流れ方として仕事場所とか勤め先とか恋人の有無とか
そんな代表的な質問事項はまだ彼女には聞けないし
どんな話を彼女にふればいいのか?悩みどころだ

もし不用意な質問で彼女を泣かせてしまったら…きっと私は途方にくれてしまうだろう

彼女にはもう泣いて欲しくなと私は思っている

とりあえず彼女に連絡しよう
会話の内容としては会社と後輩は禁止ワードにしてなんとかしのいでいこう
うん。そうしよう

粗方の戦略を練ってから携帯を手に取った
そして和さんのアドレスを開いてメールを作成した

“今仕事が終わりました。後50分ほどで自宅に到着します”

そしてサブタイトルにはきちんとお疲れ様ですと書いて送信した

「さて、帰ろう」

私は携帯をバックにしまって肩にかけてからお疲れ様ですと残っている同僚に挨拶をしながらオフィスを後にした

少し早足気味で廊下を歩きエレベーターに向かう
エレベーター前には数人待っていた

「未来ちゃん今日は終わり?」

エレベーターを待っていたら後ろから誰かに話しかけられた

この会社に私を未来ちゃんと呼ぶのは一人しかいない
すなわち後ろにいるのは

「沙織さんも終わりですか?」

私は後ろから私の後ろに移動してきた沙織さんを確認した

「ええ」

チンと音がしてエレベーターが丁度到着した
私と沙織さんはそれに乗り込む
みんな帰宅が重なったのか室内は少し窮屈で私と沙織さんは密着している
私の鼻付近に沙織さんの頭があって、そこからとてもいい匂いが香ってきた

何だろうか?昨晩の事があってから沙織さんに近づくと妙にドキドキする自分がいる

しばらくするとエレベーターが目的の階に止まって皆降りていく
だから私と沙織さんも皆と一緒に出て行く

「未来ちゃんは何だか急いでるみたいだったけど何か用事あるの?」

再び私の横に並んだ沙織さんが前を見ながら尋ねてきた
私はその横顔を一回見てから前を向いた

どうしたんだろうか?沙織さんの様子が少しおかしい

「はい。約束がありまして」

「ふーん。そうなんだ」

前を見ていた沙織さんが私のことを見上げている
その視線に気づいた私も沙織さんを見た

やっぱり何か様子が変

「その約束って、昼間に言ってた“良い知り合い”って人?」

「え、ええそうですが」

「やっぱり」

「やっぱり?」

なんでやっぱり何だろうか?まるで沙織さんには初めから分かっていたような感じだ

「だって同じ顔していたもの」

「同じ顔ですか?」

思わず自分の顔を触ってしまった
何が同じ顔?

「ええ。昼間と同じ顔をさっきオフィスでしていたのよ、気づかなかった?」

「気づきませんでした」

ああいけない、そんな私笑顔だったのか
和さんにまた会えることがそんなに嬉しいのか私は

「そう」

突然手を握られていた

「沙織さん?」

どうしたんだろうと思って私は沙織さんを見たが、また沙織さんは前を向いていた

「ねぇ未来ちゃんその人どんな人?」

「え?」

「教えて未来ちゃん」

沙織さんの様子がいつもと違う
いったい先程からどうしたというんだろうか?

「沙織さんどうしたんですか?」

「私はどうもしてないよ。ね、未来ちゃん教えて」

そう言って私のほうを見た沙織さんの顔を見て私は心がぎゅっと握られたような感覚になっていた

表情はいつもと変わらないように見える

でも何かが違う

沙織さんは今にも泣いてしまうんじゃないかと私は思った

「あまりその人のことは知らないんです」

私は沙織さんの手を握り返した
そうしたら沙織さんはもっと強く私の手を握り返してきた

「隣に住んでいる方なんですけど、昨晩たまたま知り合ってそれで今日は一緒に食事をする約束を」

「そうなんだ」

ピロンといきなりバックの中から着信音がした
あ、和さんかな
でも今は出られる雰囲気じゃない

「そっか。うん。良かったね未来ちゃん早速ご近所付き合いが上手くいって」

あ、沙織さんの雰囲気が元に戻った

なんて言っていいか分からないプレッシャーから開放された
さっきまでの沙織さんはいったいなんだったのだろうか?
どうして急に雰囲気が戻ったのだろうか?

「じゃあね未来ちゃん私こっちのホームだから」

そういって沙織さんは繋いでいた手を離していた。どうやら話しているうちに駅に到着していたようだ
そして沙織さんはバイバイと言って私に手を振ってきた

「あ。お疲れ様でした」

「お疲れ様。未来ちゃんまた月曜に会おうね」

「はい。帰り気をつけてください」

「ええ」

沙織さんは私に背を向けて改札口に歩いていった

さっき雰囲気は戻っていたはずなのに何故だろうか、その背がどことなくいつもと違うように見えた
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