リクエスト・企画作品置場
□主と奴隷(*)
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自分以外の全てを拒絶しているかのような、彼の冷たく頑なな瞳と態度。
アタシはそれまで涅マユリという人物を、その残酷さとは裏腹に。
単に信頼や愛情と呼べる感情を知らないだけの
無垢で美しい魂そのものであるかのように、そう思っていた。
否。
そうであって欲しいと、願っていたのかもしれない。
そして自分が彼に抱いていた酷く歪んだ劣情は
あの日、遂にアタシの心を闇の奥へと引きずり込んでいった。
全てはあの日。
あの現場を目撃してしまってから。
そしてその日から、アタシは毎夜彼の躯を蹂躙する。
繰り返し、繰り返す。
全てを言い訳にして。
*
ふた月前。
アタシは夜になると一人、隊舎裏の林を歩くことを日課にしていた。
十二番隊の隊長となってからは、日々議会や書類など頭ばかりを使う日々となり。
鈍った身体と心をほぐすのに、その日課は役立っていた。
そしてその日も同じような道を、アタシは夜風にふれながら気持ちよく歩いていたのだ。
暫く歩いていると、林の奥の方から人の声が微かに聞こえた。
耳を澄ませば、それは艶やかな声を押し殺したような喘ぎのようだった。
こんな夜中にこんな場所で、することといえば想像はたやすく。
いつもの自分なら無視できたものが、その時はなぜか無性に気になった。
少しの後ろめたさと大きな好奇心が、アタシの足を林の中
その、艶やかな声の元に向かわせたのだった。
そしてアタシは目撃した。
マユリさんの淫行を。
林の影からではあるが、見覚えのある後ろ姿と独特な声。
マユリさんは体格のよい、見知らぬ隊士に後ろから貫かれ、苦痛と快楽の入り混った何とも妖艶な喘ぎ声を漏らしていた。
衝撃、だった。
普段の彼からは想像もつかない卑猥な声とよがる姿。
それまでの彼への無機質なイメージが吹き飛んだ、瞬間だった。
全てが終わると。
マユリさんは乱れた着物も構わず、懐から何かの薬液が入った注射器のようなものを取り出した。
一瞬、男が身構えた形を見せたようだっが。それよりも早く確実に、マユリさんが持つ注射器の針は男の首元に刺さったようだ。
男は何か呟くと、マユリさんの足元に崩れ落ちていった。
月明かりに照らされた乱れた裸体のままのマユリさん。
彼は男を足先で蹴り上げると、興味を失ったようにその場から去って行った。
アタシは結局、最後までその場を離れることができず。
アタシの下半身は確実に。その光景に興奮し、反応してしまっていた。
そしてその後。
アタシはそれを理由に、マユリさんの躯を強引に手に入れた。
同意のないセックス。
それを卑怯だと言うならば、アタシは何の反論もしない。
方法はどうであれ、焦がれ欲していたものが今現実に手の内に在り、己の渇きは少しでも満たされている。
それが、全てだった。
普段なら見て見ぬ振りをすればよい《行為》も。
偶然知ってしまったマユリさんの秘密は、余りにも衝撃的で生々しく。
それまで彼に対して燻り続けていた崇高にも似た想いは、それを目にした瞬間に醜い劣情に変わってしまった。
だからこんな状況になってしまった事を、アタシは全て彼のせいにした。
*