リクエスト・企画作品置場

□たまにはこんな
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夕刻

『たまには酒に付き合ってくれ』



そんな風に喜助に言われたもので。
マユリは至極普通に、そして盛大に嫌な表情をして見せた。





「…嫌だヨ」



一言そう言って、喜助の前を通り過ぎようとしたマユリだが。
しかし彼の前を過ぎようとした瞬間に、その手をひしりと掴まれてしまった。



「おい浦原…、離し給えヨ。ワタシはキサマの戯れ事に付き合っているほど暇ではないのだヨ?」



「まあまあ、そんな事おっしゃらずに。
先日現世に調査に行ったんスけど、ちょっと珍しいモノを手に入れたんですよ。
マユリさんもきっと、気に入っていただけると思うんスよ…?」



「珍しいモノ…?何だネ」


「それは夜のお楽しみっス♪」


ニコリと微笑んで話す男に、マユリはやはり眼を細めて疑いの眼差しを送った。








マユリが十二番隊技術局の副局長となった後、気付いたことがある。

それは瀞霊廷で隊長・副隊長との合同の酒宴の席が度々設けられていた事。

恐らくは常にバラバラに成りやすい、各隊の親睦と結束を強める為の目的なのだろう。

隊の副隊長でもない自分が狩り出される道理はないのだが。
そこは女で、まだ子供でもあるこの隊の副隊長・猿柿ひよ里を出す訳にはいかないだろうとの喜助の隊長命令で、自分が出席せざるおえなかったのだった。

常々それに、不満を募らせるマユリであった。





そしてマユリが見る限り、酒宴の席での喜助の酒癖はとにかく悪かった。

その場に四楓院夜一が居たものならば、マユリは喜助と夜一に無理矢理に酒を飲まされ絡まれる。

喜助は夜一までには酒が強くはないらしく。
その内にベロベロに酔っ払い、何時にも増しだらしのない顔でベタベタとマユリに近寄った。



その光景を、夜一はじめ他の隊長達がさも興味深そうに眺めてくるものだから、マユリはいつもそれが苦痛で堪らなかったのだった。



だからマユリにとって、今まで喜助との酒絡みの場で良い思い出など一つも無かった。

否。
酒絡み以外の日常でも、この男との良い思い出などないのだか…












「とにかく、ワタシはキサマと二人でなど飲みたくはないヨ。
他をあたってくれ給えヨ」




嫌な記憶が蘇り、マユリは喜助に掴まれた腕を振りほどくべく身体に力を入れた。


しかし、腕を振りほどこうといくらマユリが見をよじっても喜助の拘束は解けない。



「いッ!痛いヨ、浦原…、
腕を離してくれないかネ!」


ただにんまりとした笑みを浮かべる喜助を、マユリは睨み据えた。



「離せと言っているのが聞こえないのかネ!え、浦原ッ!?」



苛々としてきて、マユリは口調を荒げてしまう。

自分を怒らせる才能だけは人一倍だと、マユリは喜助の顔を睨みながら心底思った。







「マユリさんが付き合ってくれると言って下さったら、この腕離しますケド?」


「ふざけるなッ!無理に付き合う酒など、不味くてヘドが出るヨ!」



「酷いっスね〜マユリさん」

ハハハ、と。
さして気にもしていない様子の喜助が本当に恨めしい。



「大体、仕事が終わった後はプライベートな時間なのだヨ!
キサマこれも仕事の内などと、ふざけた事を言うんじゃないんだろうネ?」



「いえ、これは全くのプライベートなお願いっスよ?
本当にせっかくマユリさんの為に取り寄せて来たモノなんすよ?
少しは興味、ありませんか…?」

掴まれた腕をギリギリと締め付けられ、マユリは痛みに顔をしかめる。

これは承知するまで離さぬつもりだろうと、マユリはここで直感した。



浦原喜助というこの男は優男を演じながらも、時に自分の考えを押し通そうとする強情さを持っていた。

自分の意思を貫くに至っての思いの強さと行動力は半端でないことなど、短い付き合いの中でもマユリは理解していたのだ。





「わ、分かったヨ。
仕方がないネ、睡眠までの少しの時間なら付き合ってやるヨ。
だから、手を離し給エ!」




男の強情さとしつこさがつくづく面倒になり、マユリは渋々と喜助の要求を飲むことにした。

ここで無駄な押し問答を繰り返すより、喜助が自分に見せたがっているモノを見てさっさと退散すれば良い話しなのだと。
マユリはそう理解することにしたのだ。





「本当っスか!?
いや〜嬉しいっスよマユリさん!
じゃあ、夜。アタシの隊舎部屋でお待ちしてますねッ!」



そう言うと、喜助はパアッと明るい表情でマユリの腕を解放した。





「全く、馬鹿力な。野蛮なヤツだヨ…」



マユリは離された手首をさすりながら、嬉し気に去ってゆく喜助の背を冷たく一瞥した。










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