リクエスト・企画作品置場

□朱の首輪(*)
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『贈り物があるんスよ』





マユリの細い首に舌を這わしながら、喜助は恍惚とした表情で優しくそう囁いた

首元の薄皮に掛かる吐息のようなその言葉が擽ったくて、マユリは僅かに身をすくませる。

今まさに正面から自分を抱こうとしている男からの突然の言葉に、マユリは今日が何か特別な日であっただろうかと考えを巡らしてみるのだが。
しかし一向にその答えは見つからなかった。

逡巡するように目を泳がせるマユリの様子を目に留めて、喜助は少しだけ口角を上げ微笑んだ。



「特に意味はないっスよ、前々から貴方に差し上げたくって…ずっと手元に置いていたんです」



秘め事のようにそっと囁くと、喜助は再びマユリの躯へと愛撫を再開し始めた。

死覇装を慣れた手つきではだけさせてゆくと、マユリの首筋から徐々に胸の方へと唇を落とす。
行き着いた先、まだ柔らかい胸の突起を唇でやんわりと包み舌先で少しだけ刺激してやると、マユリの躯はそれだけでヒクリと反応した。



「んふふッ…、マユリさんたら随分と敏感なんスね」

「ふッ、う…五月蝿いヨ」



今では喜助からの少しの愛撫にさえ反応してしまう己の躯。
揶揄するような男の言葉に羞恥を覚えたマユリは、少し棘のある視線を向けた。

性欲に対する羞恥心が未だに強のだろう。
マユリは情事の際に喜助の口から恥ずかしげもなく紡がれる、直接的で淫猥な言葉を嫌った。

言葉によって羞恥を煽られる行為を嫌うくせに、直接肉体に与えられる快楽に対してはめっぽう弱くそして従順な彼がまた不思議と愛しく。
喜助は目を細めてマユリを見つめた。



「マユリさん、キスは?」



わざと伺うように上目遣いで見つめると、マユリは少し躊躇うように視線を彼方へ向けた後。
ゆっくりと首を折って喜助の唇に己のそれを重ねていく。

瞬間少しヒヤリと冷たく感じたのは、何時も体温の低いマユリの唇のせいだった。
マユリの瞳を見つめたまま、喜助はうっとりとした表情で彼の唇を舌先で舐め上げた。
それから唇の粘膜を擽るように何度も舐めていると、やがてマユリの薄い唇が躊躇うように薄く開かれていく。

自分の愛撫を受け入れる為のマユリのその行為が、喜助の欲情を掻き立てる。
少し乱暴に口腔へ舌を捩込むと、喜助は逃げるマユリの舌を難無く絡め取った。

そのままゆっくりとやらしく音を立てながら口内を隅々まで犯してゆくと、マユリの瞳にも徐々に情欲の灯が揺らめくのだ。



互いの唾液を絡ませ飲み込み合う濃厚な口付け。

いつの間にか冷たく思われていたマユリの唇も、はだけてあらわになった肌も穏やかに火照り始めていった。



「ぅウ…、ン…ッ」



余りにも長い喜助の口付けを受け、マユリは少しの脳酸欠にボンヤリと潤んだ瞳をそっと伏せた。
羞恥の為か、濃い蒼の睫毛がそれを隠すかの様に僅かに揺れ動く。

まじかに移り変わる、そんな繊細なマユリの表情が喜助の劣情をどうしようもなく煽ってしまう事など、色恋に鈍感であるマユリには気付く筈もなかった。



「あはッ、マユリさんたら恥ずかしがっちゃって可愛いったら…。ね、もっと口開けて?」



喜助の熱の篭った声で囁かれ、マユリは堪らず強く目を瞑った。



「ハッ…ア、う…らはら。そう言えば話しが、途中だった…ヨ?」

「話し…?」



ちゅくりと音を立て少しだけ互いの唇を離したマユリは、瞼を伏せたまま熱い吐息の様な声で喜助にそう問い掛けた。



「お前が言っていたッ、…あの贈り物がどうとか」

「ああ、アレね。何です?気になるっスか」

「お前が言ってきたのだろう」

「そりゃそっスけど…、ふふ。
せっかくマユリさんがその気になってきて下さってたのに」



マユリが僅かに見上げると、喜助は互いの唾液で卑猥に濡れる唇でニタリと笑い、未だ欲情の篭る瞳をマユリに向けた。



「…う、煩い男は嫌いだヨ?さっさと用件を言い給えヨ。気になって仕方がないのだがネ」



情欲の色を隠そうとはしない喜助の瞳に、マユリの胸がドクリと高鳴る。
その心境を知られたくなくて、マユリは平静を装う為にいつも必死だった。

先程喜助が言っていた自分への贈り物云々など、本当はマユリにとってどうでも良い話しだった。
しかし今は何より、この濃厚で甘美な口付けから崩れそうになる理性を保ちたかった。

喜助とこうして密事を重ねる毎に快楽に馴らされていく己の躯。

男としてのプライドがそれを責め、崩れゆく理性の寸前までそれを保とうとマユリは必死にもがくのだ。



「ん〜、ふふっ…」



マユリが乱れた息を吐くと、小さく笑う喜助の声が聞こえた。
そして自分の着物の袂から何やら取り出そうとする気配に、マユリは訝し気な視線を送る。

壁にもたれ掛かるように座らされ上半身もあらわに喘ぐ自分と、未だ死覇装をきちんと身につけている喜助。
その姿をよくよく考えれば、何だか自分が女の様に一方的に事を進められているようで。
マユリの顔は羞恥と妙な屈辱感から徐々に朱を注したように赤く染まっていった。



「はいこれ、マユリさんにお似合いだと思ってずっと持ってたんですよ?
アタシの手作りなんス…」





喜助が死覇装の袂から取り出しマユリの眼前に掲げたモノは、抑えた赤味が美しい朱色の首輪だった






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