主文
□なんで?
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瀞霊邸十二番隊舎・技術開発局一室・正午
*
ガチャガチャ
「フゥ…」
ポチャリ
「う〜ん…」
カリカリ…ガチャリッ!
「ッ…はぁ〜」
技術開発局・研究室に響くのは、器材が擦れ合う音と薬液の臭い。
「いやぁ、何スかねぇ〜」
と、何やら気の抜けた男の声とが混ざり合っていた。
「浦原隊長!危ないんですから、意識を戻して研究して下さい!!」
浦原の助手を務める阿近が堪らず近寄り、浦原からフラスコに入った緑色の液体をもぎ取った。
「う〜ん…」
先程から気の抜けた声を出しまくっている張本人、浦原喜助は阿近に器材を奪われたにも関わらず、全く気付いていない様子。
クルクルと、薬品を混ぜるように手首だけを回し続け、呆けた眼でブツブツと言い続けている。
「ちょっと、隊長!いい加減にして下さいっ!朝からずっとボ―ッとして…。
お疲れなら僕達がしますのでお休みになってて下さい!!」
「んっ…アレ!?…どーしたんスか阿近君、いきなり大声出してぇ」
至近距離での阿近の大声に、彼方へ飛んでいた浦原の意識は、無事生還したようだ。
「どーしたじゃないですよ、隊長!大事な実験なんですからしっかりして頂かないと、他の隊員も困りますっ」
「いゃあ〜。…ホント、申し訳ないっス」
年下の、しかも部下に叱責され浦原はシュンと肩を落とす。
確かに握っていた筈の器材も薬品も手元にない。というか、ちょっと記憶がない。
「あれ…?」
浦原が部屋を見渡すと、技局の隊員が皆、冷たい視線を自分に向けていた。
「いやいやっ!本当申し訳ありません〜。アタシ何か、ボゥっとしてたみたいでぇ」
カリカリと頭を掻き謝る姿は、隊長の威厳などゼロである。
「浦原隊長…、やっぱり最近変ですよ?大丈夫なんですか」
阿近が今度はやや心配げに浦原を覗き込む。
こんな一見頼りなげな隊長でも、科学者としての浦原の実力に、まだ若い阿近は尊敬の念をを抱いていた。
このところ皆、研究所に篭り休みを取る時間も少なく、本当に具合が悪いのではないかと心配でもあった。
「いやぁ〜全然、大丈夫ですよぉ。
ささ、皆さん気になさらずお仕事続けて下さい」
今だ心配げな阿近にニッコリと微笑むと、浦原は部屋の一番奥で研究に打ち込む隊員をそっと見遣った。
この騒ぎにもただ一人反応せず、黙々と何やら紙にペンを走らせている人物。
技術開発局副局長・涅マユリ。