主文

□お願い!阿近君
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『ねぇ阿近クン。マユリさんの素顔って、どーなんスかねぇ〜』











その日の仕事を終え一息ついた頃、僕は局長に突然、そう尋ねられた。


「…どうって聞かれても、分かりませんよ」


「やっぱり?」



十二番隊の隊長兼・技術開発局長である浦原喜助の言動には、不可思議なことが多い。

だから僕はそう答え、ただ不思議に局長を見上げた。

まだ幼なく背の低い僕には、局長の表情はよく見取れなかったけれど、声のトーンからは彼の機嫌の良さが伺えた。



「局長、何で僕に聞くんですか?」

「ん〜、阿近くんがマユリさんと仲が良いからッス」

「僕と、涅副局長が?」

「はい、そうッスね」

「…そう見えるんですか?」

「違いました?」

「………」



僕は暫く、考えてみた。

(自分と涅副局長―。)


研究員の一員として涅の指示を受けたり簡単な補助をする事はあっても、まだ知識の浅すぎる自分など、長々しい話しなどした記憶はない。




「浦原局長…、やっぱりそれは違うと思いますよ。
僕なんてまだまだ研究についていくのが精一杯で…。もちろんっ…局長や副局長にはその、憧れますけどっ!」



「そっスか…」


一気に喋った為に少しクラクラする僕の頭を、局長の手が優しく撫で下ろした。

「阿近くん」

「はい」

頭を撫でられながら、頭上から聞こえる穏やかな局長の声を、僕は不思議な気持ちで聞き受けた。



「マユリさんはね、とても賢くて用心深い人なんス。だから研究の補佐に選ばれること自体、阿近くんは既に彼に認められてるって事なんスよ」


「認められてる―?」


「そう、もちろんアタシもっス。
だから阿近くん。もしアタシが此処から居なくなっても、マユリさんの側で、彼とこの技局を支えて下さいね」


「…浦原局長が、いなくなる…?」


局長の言葉に不安を感じ、少し見上げた僕の眼に、局長の大きな手と嬉しげに微笑む口元が映った。


とても大事な人に想い馳せるような、穏やかな空気を纏ったまま、局長は身を屈め僕を見つめた。



「アタシが居なくなるってのはもしも、のお話しッス」

「は…い、局長」



局長の優しく真摯な瞳に、僕は頷いた。




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