主文

□好きだから
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誰かに本気で恋をするなんてことは、本当に何十年振りかのことで。



いわゆる(片想い)と言う、何とも乙女ちっくな感情に気付いてから後。
喜助はマユリへの想いを彼に伝えるべく、それでも積極的に働きかけてきた。



ある時はねっとりとした熱視線を送り。

時には少し自慢の、低音ボイスで話し掛けてみたり。

一緒に実験ができるそんな幸運な日などは、何気を装いながらベタベタと、マユリの体に触れてみたりなどした。



しかし一向に、喜助に対するマユリの反応には変化が現れない。

話しかければ無視をされるか邪険に扱われ。
仕事以外での接触はことごとく避けられる。

端から見れば最初から完全に、マユリから嫌われている光景だった。



そこで喜助はどうにかマユリの気を引こうと、もう一押しを思案し続けた。



練りに練った計画。
結局それは、押して駄目なら引いてみる。
という、全くもって単純で古典的な方法だった。


性格通り押しの一手を改め、今度は引きの手法を取り入れてみることにしたのだ。


その内容は、マユリに対する徹底した無視。



常々纏まりついていたものが突然姿を消した時、人はどんな形にしろその相手を気にかける筈だ。

そうすれば必然的にマユリから話しかけてくる機会も増える筈だと、喜助は考えた。





なので、喜助はマユリへの接触を極力避けるようにした。














一週間後。



今だ喜助の子供のような
《マユリの気を引く作戦》は実行されていた。








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