主文

□この感情を無に還して
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一度目の告白










誰かを想い、心を乱す



誰かを想い、心を熱くする



誰かを想いその心を信じる





それが恋することなのだと、そう自分に言ったのは紛れも無くあの薄情者の男だった。





そんな歯の浮くような言葉を同じ男に良く言えるものだとねと、馬鹿にしたワタシに。
いつも軽薄そうな薄笑いしか浮かべない男は、その時少し照れたように微笑んだ










二度目の告白





他人の心など些細なことでいつかは移り変わってしまう、所詮は不安定な軸に揺らめく天秤のようなもの。

目に見えない不確実な他人の感情に振り回される程、虚しく馬鹿げたことはないと言ったワタシに。

男はやはり優しく微笑んで
それは貴方が人を恋する気持ちを知らずにいるだけなのだと、そう呟いた。










そしてワタシの空虚な心、その全てを自分の愛が満たすのだと。男はこれまた反吐が出そうな程に甘い言葉を囁いた。





それが男の、三度目の告白だった。










安穏とした日々の中で、男は決してワタシの言うことに逆らわず。
ワタシの不信や拒絶さえ全てを受け入れた。

だけれどいつも自然な距離を保ちながら、男は着実に少しずつワタシに近付いたのだ。





ワタシの全てを受容する、男の態度と甘い言葉。



ワタシは不覚にも、少しずつ男の術中に嵌まっていった。










『マユリさん、そろそろアタシの気持ち。理解していただけましたか…?』





随分と時が過ぎた頃

そう言って一度だけ、男はワタシに触れるだけの口づけをした。





だけれどワタシは、やはり他人であるあの男の言葉や態度を信じきれる筈もなく
何の言葉も返さなかった。











浦原喜助

お前が尸魂界から姿を消して既に何十年もの月日が過ぎた。





お前が一つの言葉すらワタシに遺さず消えたあの日。ワタシはお前という男の存在を、初めて認識したのだよ。





おかしなものだネ





ワタシはそれからお前が消えた所在と理由に心を乱し。



何も告げずに去ったお前を恨み求めて心を熱くした。



しかし残念ながら、最後までお前を信じることは出来なかったのだよ。





それはそうだろう?





お前がワタシに与えたモノは、他人への半端な依存と期待に少しの肌の暖かさ。



そして更なる空虚と孤独に猜疑の闇。











ワタシはお前が嫌いだった。



お前に出逢わなければ、こんなにも誰かの為に心を乱し
己の心に空虚を覚える事はなかったのに。





卑怯なお前は、ワタシの心を侵して尚。
こんなにもワタシの精神を脆弱にしてしまった。










浦原





お前が生きて、今でもワタシに半端な愛を語るつもりが少しでもあるならば。





もう二度と、ワタシの前にその姿を現すな







終。
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