小咄

□マユリ様とネムちゃん
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「マユリ様、お呼びになりましたか…?」



「ネム、遅いヨ!ワタシが来いと言ったら、早く来るんだヨ」



「申し訳ありません。既にお休みになっていた様子でしたので。
…マユリ様、どうなさいましたか?」



「フム…少し嫌な夢を見てネ」



「夢…、ですか?」



「そうだよ、ネム。
お前の頭脳にはそこまでの機能を付けていないから、分からないとは思うがネ」



「申し訳ありませんマユリ様。わかりません…」



「謝る必要はないヨ」



「夢とは、どのようなモノなのですか?」



「そうだネ…、ワタシもまだ確かな答えを見つけてはいないのだがね。
先程見たのはつまらん昔の、記憶の端くれだったヨ」


「昔、ですか…?」



「そう。まだお前が生まれる前の話しだヨ」



「私が生まれる前…」



「そう…。前にも少し話しをしたか?浦原喜助という死神のこと」


「はい…。十二番隊の先代隊長であり、技術局局長。マユリ様は副局長としてご一緒に働かれていたと…」


「まぁ、あいつは大した研究などしなかったがネ。
問題なのは奴が度々、ワタシの夢に現れるのだヨ…」


「何故、ですか…?」



「さァ。ワタシにも分からんヨ」



「彼は突然に、反逆者として現世に追放されたと。そうお聞きしていますが…」




「表向きはネ」



「…?」



「詳しくは知らないが。
ワタシは何か違う理由があったと…そう思ってるのだヨ」


「マユリ様は、まだその方をお気になさっているのですか?」



「気にする…?まさか。
理由がなんにせよ、ワタシに何も言わず勝手に居なくなった男だヨ?
しかし何故だかたまに、思い出したかのようにワタシの夢に現れる。
忘れようとした頃に、必ずだ。
全く不愉快だヨ…」





「…マユリ様。夢とは人の記憶や願望と深い繋がりがあると、そう聞いたことがあります…」



「そういう輩もいるネ。
だがワタシの夢に出てくる奴は、いつも笑っているだけなのだヨ。
何をする訳でもなく、いつもと同じくヘラヘラと…」



「マユリ様…?」





「…ネム。浦原は誰かれ構わず接触し、そつなくしたたかに生きていくタイプの男だった。
だけれど何故か誰もが、いつの間にか奴の調子に流されてゆく…
ワタシはそんなだらし無くずる賢い奴が、嫌いだった」



「はい…」



「だから浦原が消えた後、奴とは全く違ったタイプのお前を造ってワタシの傍に置いたのだよ…、ネム」



「マユリさま…」






「…ネム。お前は勝手に、ワタシの前から居なくなるんじゃないヨ?」





「はい…」





「お前はワタシを裏切るな。その命が尽きるまで、ワタシの傍に居るんだヨ」





「…はい、マユリ様」









「ネム。今夜は寒いネ…
ワタシが寝付くまで、此処にいなさい。
嗚呼、いやだネ…。
奴がワタシの夢に出てくるのも、そういえばいつもこんな寝付けない夜ばかりだ…」





「お傍におります―…。
だから安心して、お休み下さい」



「…おやすみ、ネム」
















『寂しいのか』と。


そう、私は彼に聞けなかった。






終。
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