小咄

□マユリ様と喜助さんB
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「…で?何なんだネ浦原。何時までもそんな所に居るんじゃあないヨ、邪魔だ」



「なっ…マユリさん酷いっス!
アタシは貴方が仕事で忙しいからって、全っ然逢いに来て下さらないから。
だからこうして研究室にまで足を運んで来てるのにッ!」



「五月蝿いネ、誰も頼んじゃいないヨ。
大体キサマも分かっている筈だろう?
この研究はもうすぐ完成しそうなのだヨ、よってキサマと話す無意味な時間などワタシにはない」




「ひッど!!アタシ達愛し合う恋人同士っすよ?
分かってます?マユリさん!?」



「だから何だネ。
たかが一、二週間程の時間拘束だヨ。
研究に入ればそれ位、科学者としての日常だと思うがネ?
それとも浦原、キサマそれも解らぬ程の阿呆だったのかネ…」



「ち、違いますよお!
それは承知しています。
今までだって貴方はそうでしたし。
ただアタシはちょっとだけでも…せめて夜の一時だけでも、貴方と二人きりで過ごしたいんス。なのに…」




「何だネ?」



「なのにマユリさんっ!
貴方はこの所夜までラボに寝泊まりして、しかも鍵までかけるなんてッ!
何なんスかその警戒心は、えッ?何に対する予防策なんスか!?」




「嗚呼…五月蝿いネ、
こちらは不眠が続いてアタマが痛いのだヨ、静かにしてくれ給エ。
キサマが居ると全く研究に集中できない。
ラボの鍵…?それは決まっているじゃないか、単なる鼠避けだヨ」




「ネズミ…?」




「ああ全く。こうも研究が長く続くと腹が空くのかね?
餌を求めて何処から侵入してくるか分からない輩だからねエ…。
全くピイピイチュウチュウと、五月蝿いコトだヨ。
騒がしいのは嫌いなのだよ、ワタシは」




「マユリさん…。鼠って、何か遠回しにアタシの事おっしゃってません?」



「そうかネ?そう聞こえたなら、キサマもまだ腑抜けてはいないのだろうネ」



「やっぱり!アタシは鼠っスか!?」



「同じ様なモノだろう…?隙があれば何か喰らおうと目をぎらつかせて。
浦原、近頃のキサマは腹を空かせた野鼠と大差はないヨ」



「野鼠…?そこまでおっしゃいますか、マユリさん」



「言ったがネ。それがどうかしたのかネ、えッ?」




「確かに…確かにギラついてますよ、貴方を求めてねえ!?
だけど余りに酷いんじゃありませんか。愛故に、アタシは貴方に逢いたいんスよ…それだけなのに!」




「愛故にとは…、全く小綺麗なモノの言いようだネ?
言わせて貰うが、浦原。
キサマが深夜に手を繋いで満足するような、可愛いげのある男には到底見えないのだがネ…?」




「そりゃそうっスよ!
貴方という極上の餌を目の前にすれば、食して朝まで貪るのが普通でしょ?」




「嗚呼、嫌だネ…。キサマのその目は欲情した野良猫にも見えるヨ。
否、雌を求めて地を嗅ぎ回る発情期の野良犬の方が、妥当だろうかネ?」




「ひっ、酷過ぎるッス!
アタシの純情を踏みにじるなんてッ!
マユリさん、貴方なんか」



「…何だネ?」




「貴方なんて、きッき、ら…」



「ホウ…。嫌い、かネ?」



「……」




「…それは実に、悲しい知らせだネ。
この一時の忙しさで揺らぐキサマの心など、信じたワタシが馬鹿だったようだ」



「マユリさんッ!」




「実に残念だヨ、浦原」



「そ、そんな目でアタシを見ないで下さいよ!」




「何故?ワタシは別に、キサマを嫌った発言など一言もしてはいないのだヨ?
この研究さえ終えれば、また何時も通りの生活に戻れるものを…。
今一時の欲望さえ抑えられないとは…、ワタシも舐められたものだ。
哀しい限りだヨ、浦原」






「あぁぁア!マユリさんてば、やっぱり可愛い。
嘘うそ、好きっス!!」




「馬ッ鹿、寄るんじゃないよ浦原!
それ以上近付くと、殺す」



「そんなあ〜。貴方に殺される前に、欲求不満で死んじゃいますってば、アタシ!」




「今すぐ、嫌ってやろうカ?」





「……ハイ、我慢します」
















ああしかし。

鍵になど、何の意味があると言うのかネ?



無理矢理にでも、どうとでも出来るコトを。



全く以って、やはりキサマは腑抜けた男だヨ。浦原










終。
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