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□死に至り
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『死んだ後には、何が遺ると思う―?』





突然、そんなことを呟いた彼。



身体を繋げた後の、怠惰で甘い部屋の中で。
マユリさんはとても興味深げな瞳をアタシに向けた。



「なぜ今、そんな事を?」



今この心地好い空間と気持ちに、全く似つかわしくない言葉だと。
アタシは少し非難めいた視線を彼に返した。



「今思ったのだから、聞いてみたのだがネ?」

全く悪びれた様子もなく。マユリさんは乱れた寝台の上でゴロリと仰向けになった。





化粧も何もかも全てを取り去ったマユリさんの躯は、いつもより余程艶やかで健康的に見える。



綺麗な横顔と、アタシが彼の細い躯中に散りばめた紅斑が何とも卑猥に目に留まり。
おさまりかけていた己の下半身の熱が再び燻り出すのを感じた。





「貴方でも、そんな事を考えるんスね…」



「オカシイかね?」



「あ…、いえ」



言った後で、少し後悔。


「すみません、ちょっと意地悪でした…」



「…構わんヨ。ワタシは沢山の生物を殺してきたからね。
いまさら生死を語るなど、オカシイと思うのだろう?」


そう言って仰向けのまま瞳を瞬きもさせずに、彼は淡々と言葉を紡ぐ。



「色々と生物を研究してきたのだがネ。
今の所、被検体の肉体の調べはほぼ完了した気がするのだヨ。
しかし、やはり死後の領域…精神領域になると、中々に調べる事が難しい…」



「それで、興味を持たれたのがソレですか?」



「嗚呼…。知りたいネェ、浦原。
元々我々は一度死んだ生物達だ。
死神の死は即ち、魂そのものの消滅…。
そしてまた転生すると言われてはいるが…」



ギロリと見開いた瞳をアタシに向け、マユリさんはニタリと笑った。



「本当にそうなのかねェ…魂の消滅後に、何か一つでも遺るモノはないものかネ…?」



肉体・記憶そのカケラだけでも―



そんな事を言う今日のマユリさんは、いつもより少し穏やかだった。






「じゃあ、殺してあげましょうか―?」



アタシは彼に問い返した。
彼が望むならば、それは本気の言葉。





仰向けに寝転がったままのマユリさんに覆いかぶさるように、両手を彼の細い首に巻き付けてみた。

両頸部に感じる動脈の拍動と情事後の火照のある皮膚の温度が、今確かに彼が生きていることを現し。
その琥珀色の瞳が、欲望に艶めいていくのを感じた。


マユリさんはアタシの手に首を掛けられたまま、ニヤリと笑う。





「嗚呼…この魂の消える瞬間が、知りたいネ。
…だがまだ少し、早いヨ」



「…何故?」



「まだ数多く、調べ足りない事がある。
死ぬのはもう少し、先でいいヨ」



トロリとした表情で、マユリさんはアタシを見つめた。
その表情がアタシの劣情を刺激して、マユリさんの首に絡めた指に少しだけ力を入れたままキスをする。







「マユリさん…。アタシは元来魂の消滅後に遺るモノなんて、ありゃしないと思ってるんス。
人の躯も死神の躯も義骸と同じただの器。
そこにある精神そのものが昇天しちゃったら、何もない。何も残りませんよ…」



「ホゥ…それはまた、久しぶりに君から科学者らしい見解を聞いたヨ。浦原。
しかし全てに無限の可能性を求めてこそ、ワタシ達科学者は存在すると思うのだがネ…」





「あなたは思いの外、ロマンチシズムに溢れているっスね…」





「別に。ワタシはただ知りたいだけだヨ…」





悦とした彼の顔に、やはりアタシの躯はふしだらに彼を求め。



マユリさんはまだ得られる事のない答えを想像し、そこから悦びを得る。










死んだ後に遺るもの―?



アタシの存在の記憶。
その一カケラでも、マユリさんのナカに在り続ければ本望だと。



そう言ったら、やっぱり彼は笑うだろうか?






終。
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