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□歪曲された敬慕@
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今よりまだずっと幼かった頃。
ある時から僕は、生物の生死に大変な興味を持った。

その興味は日々大きくなり、僕の小さな心の大半を占めるようになっていった。



暫くして、僕はとても面白い遊びを考えついた。

ヒトや自分の表皮を小さな刃物で傷つけそこが治癒する過程を観察したり。
動物を解剖して、そこから流れる血の色・臭い・臓器の感触を確かめてみたり。
少しだけ悪戯のような遊びを、一人で始めたのだ。

周りの大人は僕のそんな遊びをいけないことだと叱り飛ばしたけれど。
生き物が息絶えるその瞬間の緊張と弛緩。
そこで感じる心の高揚感に、僕は遊びを止めることが出来ずにいた。



その内に友達や周りの大人達は、僕を気味悪いモノを見る様な目で見るようになっていった。
恐ろしと言って去った者もいたっけ…

他の死神の子と少しは変わっていたかもしれないけれど。
僕自身、何故こんなに怒られ皆から避けられるのかサッパリ分からなかった。





そしてある日。
僕は突然、二番隊らしき隊士達により捕らえられ。
危険因子として収容所へと移送される事になった。

まだ幼かった僕は、その場所が一体どんな所なのか。
何故自分がそんな酷い扱いを受けなければならないのか分らず、馴染みの大人に助けを求めたけれど。
結局誰ひとり、僕を助けてくれる人はいなかった。

ただ最後に耳に留まった周囲の言葉は、今から僕が移送される場所が蛆虫の巣という何とも気味の悪い名前であることと。
恐らくは、もう一生そこから出られることはないであろうという事実。



移動中ずっと目隠しをされていたから、収容されるというその場所すら特定することもできず。

次に目隠しを外された時に目に映ったのは、ひんやりと薄暗いけれども広い洞窟の中に投げ出された自分の身体だった。



そしてその日から、僕のそこでの暮らしが始まった。

最初は随分な戸惑いがあったけれど。
食事や睡眠・読者など、収容所内では幾分かの自由もあった。
子供だった弱い自分を虐める様な者もなく、僕はその内にすっかりそこでの軟禁生活に慣れてしまった。



そうして暮らすうちに時々、浦原喜助という一見優男にも見える新しい看守が巣の見回りにやって来るようになった。

洞窟内に収容されていたのは見た目からして凶悪そうな大人達が殆どだったから、いつも何人かの囚人達がその看守に襲い掛かっていたけれど。
いつも尽くやり返されていた。



全く馬鹿な奴らだなと、僕はそれをいつも傍観していたものだ。



そしてそんな暮らしが数年続いた頃、同じ囚人達の間で一つの噂が流れ始めた。


この場所よりずっと奥。
完全閉鎖された場所に幽閉された罪人が、ここから解放されるということ。



良くは分からなかったけれど。
最近浦原と言う看守が頻繁に、地下に潜っていく様子を見ていたから。
きっとその罪人に会いに行っていたのだろうと、男の行動の理由を僕はその時理解した。



そしてその数ヶ月後、噂の罪人が解放される日がやってきた。

僕達が過ごす広い洞窟より更に奥。
幾つあるのか分からない程の鉄格子の向こうから、その人物はやって来た。

最後の鉄格子が開く手前で徐々に聞こえる、ガシャガシャとした鉄の摩擦音。

その音と近づく異様な霊圧に、洞窟内の囚人達の視線が一気にその場所に集まった。



ギィギィとした錆混じりの濁音と共に開けられた最後の鉄格子。
罪人は、未だその見るからに細い手足に金属の枷を嵌められた状態で姿を現したのだった。



看守に枷の鎖を引かれ歩く罪人の姿を初めて見た時、僕はその姿にただ素直に驚いた。
遠くから見えるひょろりとした細身の躯は女のようで、僕はジッとそいつが歩く様を見つめていた。

ざりざりと足を滑らす様に歩き進む罪人。
少し俯き加減な為にその顔ははっきりしなかったけれど。
白い囚人用の着物から覗く手足は、その着物と同じように白かった。



ザリザリ、ガシャガシャと音を鳴らしながら洞窟の出口へと向かう看守と罪人。まるでその姿は飼い主と愛玩動物の様にも見えた。



二人が洞窟出口のドアに近付いた時、突然看守が立ち止まった。
すると何か思い出したように、看守が罪人に近付いて耳元で何かを囁く様子が目に映った。

ほんの数分、二人は言葉を交わした様子で。
そして次にはチラリと、僕が居る方へと顔を向けたのだ。


一瞬ドキリと、胸が高鳴った。


そしてゆっくりと、二人が僕の方へと近付いて来くる。

周りの囚人達はその突然の出来事と二人の異様な霊圧に圧され、遠巻きにこの様子を見るしかないようで。
かく言う僕も、近付いてくる二人の高い霊圧のせいで若干吐きそうになっていたのが事実。





「あなた、確か名前は阿近くん…でしたよね?」



僕が座る椅子の前で立ち止まると、看守は穏やかな声でそう言った。







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