UNDER

□相違愛
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男の口から切なく紡がれた数々の、祈りの様な言葉の羅列



そして好きだ好きだと縋るその姿は、実に滑稽なものだった





「何度も言うようだがネ、ワタシはキサマになど。
興味の欠片さえ持ち合わせてはいないのだヨ」





もう何度目かになる否定の言葉を投げ掛けてやれば、噛み締められた男の薄い唇が僅かに震えた。

余裕を失ったその様を眺める気分はそう悪くはなく

男の瞳に潜む歪んだ欲望の闇を覗き込む事は中々に、ワタシの興味をそそった。



男に恋をした憐れな男



ワタシは何の感情をも篭らぬ言葉で、男の想い・感情を否定し続ける。








「浦原、キサマもしつこい男だネ?」



「すみません、マユリさん…。でもッ、ボクは!」



「謝る気など無い癖に、実に殊勝な態度をとるものだね。
結局の所、ワタシをどうしたいと言うのかネ?」



卑しめるような視線を向ければ、男は躊躇いながらも
とても下劣で生々しい欲望を口にした。

そして徐々に艶めかしい欲色に彩られる男の顔に、ワタシの躯の奥底からはこの上もない程の快感がぞわりと這い昇るのだ

いくら遠回しに小綺麗な言葉を並べ立てたところで結局はワタシが欲しいのだと、男は最近になってやっと卑しい己の心の内を吐露するようになった。





だからワタシは男に一路の望を決して絶やさせぬように、時に絶妙なる甘い蜜を与える事にした。



決して男の想い総てを受け入れず



しかし男がワタシに縋る様を何時までも見続けられるようにと。





ワタシの全てが欲しいと戸惑い悩む男の姿。

それは随分とワタシの優越と嗜虐の心を刺激して

既に灰色に壊死し活動を失ったかに思われていた己の脳細胞でさえ、その悦楽には奮え酔いしれる事ができた。





ヒトの内なる心の醜くさと欲望ほど、魂の本質に近いものはない。

しかし常人は、何時もそれを隠そうと必死なのだから実に滑稽で堪らなかった。

己を外を美しく飾り付け、口先だけの優しい言葉で如何にも聖人の如く在ろうとする。

己の満足だけに真実の内を明かさず、そこから得られた優越・快楽が本物であると錯誤している事にすら気付かない愚かしさ。





だから、ワタシは男を試し続けるのだ。

何時までも恋だ愛だと綺麗事を列べ、ワタシに女を扱うような甘い言葉を吐くお前は

やはり常人であろうとするつまらぬ輩の一人なのか、と。








「浦原、ワタシをどうしたいと?」



ワタシが聴きたい言葉など只一つであれば良い。



「マユリさん、ボクは…」



聴きたい言葉も知りたい真実も、ワタシの望みはただ一つ。

より魂の本質に近い、偽りないヒトの欲望。
それこそがワタシの望み





「ワタシはキサマの酔狂に付き合うつもりは無い」



「マユリさん…」



「しかし狂い着いた先のヒトの本質には、少しの興味は湧きそうなのだヨ…」



そう呟けば、男は理性をあっさり捨て去りその瞳に欲望を映し出す

男の淡い色素の瞳に灯る渇いた欲望だけが、唯一ワタシの心を酔わし潤す。





「おいで、浦原」





にたりと微笑み両手を伸ばせば、飢えた獣の如く荒々しい男の腕がワタシを引き寄せた。



唇が触れ合う瞬間
ワタシは男にまるで秘め事のように優しく、同じ言葉を繰り返す。





「いいネ…、浦原。
キサマのその目は嫌いじゃない」



しかし好きでもなのだヨ、と。



そうすれば僅かな期待と痛みに目を細める男の表情に、ワタシの心は再び悦び奮えるのだった。





ワタシの全てが欲しいと叫ぶ男に己の躯を与えてやる事はとても容易いコト。

すると男は更にワタシの心が欲しい欲しいと渇望する

ワタシの躯を与えて尚、ワタシの心が欲しいと求め狂うお前は。

何て馬鹿な男だろう

そんなお前が愛おしくて仕方がないのだヨ。





しかし残念ながらお前の望みは一生叶うことはない

何故ならワタシの望みは

ワタシを求めるお前の無様で無垢な魂だけなのだから








だから浦原



どうかワタシを求めて永遠に、ワタシが狂い死ぬまで傍にいておくれ








終。
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