リクエスト・企画作品置場
□白い首筋に噛み付く(*)
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夕刻を過ぎた頃やっと、マユリは研究室からその姿を見せた。
彼が新しい霊具開発を思い付いたと言い突然研究室に篭り始めて、それは約十日振りの事であった。
「できたヨ…」
研究室から出てきたマユリはやつれた顔を向け、少しよろめく足取りで喜助の元に歩み寄った。
「マユリさん、また痩せちゃいましたね…」
心なしか全身が一回り細くなってしまったような恋人の躯に手を添えて、喜助はマユリを椅子に座らせた。
久しぶりに間近で見たマユリの顎ラインは、何時もより骨っぽさが目立ち、皮膚は蒼白さを増していた。
時折入浴や厠に向かう姿を見掛ける以外、研究室に篭りきりだったマユリ。
きっと給仕された食事にも僅かしか手を付けず、睡眠すらろくに摂ってはいなかったのだろう。
しかしマユリのその表情はとても、嬉嬉としていた。
それからマユリは暫く、その霊具開発に於ける細々な仕様や作成過程の内容などを喜助に話し続けた。
ひたすら無心に。
通常、マユリは恋仲にある喜助に対しても饒舌さというものを見せなかった。
彼本来の冷然で用心深い性格。
そしてやはり、他人への無意識なる拒絶や不信が拭い去られていないからだろうと、喜助はそう考えていた。
だがしかし極稀に。
マユリが喜助の意見や誘いに対し素直に従う時や、自ら進んで話しをする時があった。
大概それは何か良い研究案を思い付いた時や、それらの打開策を思い付いた時など、マユリの機嫌が相当に良い場合のみであり。
或はただの、気まぐれである場合も多かった。
そんな、まるで猫の様に刻々と変化するマユリの感情を読み取り。
それに合わせて調度良い距離感を保ちながら近付く術を、喜助は最近ようやく身につける事が出来るようになったと感じていた。
「マユリさん、この所ずっと研究室に篭りっぱなしでしたでしょ。
少し、お食事摂られた方がいいんじゃないスか?お話しはまたその後で」
一通りの説明が終わり漸く一息付いたマユリに、喜助は極力サラリと問い掛けた。
「?…ああ、そうだネ。続きの説明は後にしようか」
満足気な表情のまま。
マユリはやはり今回、喜助の思惑通り素直な答えを返す。
その返答に、喜助は深い笑みを浮かべた。
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