リクエスト・企画作品置場
□本能と恋というもの(*)
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最初に関係を持つよう仕組んだのは自分。
全ての始まりは、あの薄暗い蛆虫の巣での衝撃的な出会いからだったろう。
《クロツチマユリ》
彼は出会った当初より常に沈着冷静でいて、その態度は不遜。
そしてやはり科学者である前にヒトとして、特異な思考の持ち主だった。
彼の姿と声はよく観察すれば、奇異な中でもとても中性的であり。
アタシの好奇心を煽るに十分だった。
彼の存在はそれから徐々に、アタシの心にそれまで感じたことのない程の期待と昂揚を生じさせていった。
そして巣から出ても尚、彼の態度は依然として変わらず。
アタシは何かと彼の興味を自分に引き付けようと努力し、彼の変化を観察し続けた。
そんなアタシの彼への言動は、陳腐な言葉で言えば恋する男のそれに似ており。
しかし恋と呼べる程に優しくも甘くもない、ドロリとした感情をいつも伴わせていた。
彼の変わらぬ不遜な態度や、アタシに見せる見下した様でいながらも悦の含まれる笑み。
それらを見せられる度にアタシの心に押し寄せる感情は、ただ動物の本能である征服欲と肉欲。
そしてある種の執着にも似た感情のみとなった。
そんな原始的な感情までもを恋だと言うのならば。
今まで自分が数多くの女性と過ごし手放してきた甘い日々など、精と時の浪費に過ぎなかったとさえ思えた。
女達との穏やかで悦楽とした日々。しかし何処か空虚な時間の繰り返しを恋と呼ぶのか。
それとも、
いま自分を憎らしげに見上げる男に寄せる、己の凶暴で醜悪なる感情が恋と呼べるべきモノであるのか。
アタシにはもう、どちらが本当なのか解らなくなっていた。
「マユリさん、ねぇ…。
アナタがもう少し素直になってくれたら、うんと優しくしてあげるのに…」
足元でうずくまりながらこちらを睨みつけるマユリさんの表情に、己の征服欲が再びゾワリと頭をもたげ始める。
手に入らないモノを力で征服したいと思うのは。
動物として、オスとして生まれてきた性。
『そんな本能が理性を上回るのだから、アナタの獲物としての魅力は相当なものだ』
いつか、己の怒張した性器をマユリさんの咥内に挿入しながらそう彼に伝えたら。
本気で侮蔑の目を向けられ、ソコを食いちぎられそうになった。
理性を失った生物は、只の下等な動物に過ぎないのだと。
マユリさんにアッサリそう言われた時は、成る程そうだなと納得したものだ。
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