リクエスト・企画作品置場
□昔話し
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事の始まりは夕刻。
研究室で喜助に呼び止められたマユリは、怪訝に思いながらも足を止めた。
喜助曰く、何でも画期的な研究案を思いついたとのことで、夜に飯を食べながらゆっくりと話しを聞いて欲しいとのことであった。
《画期的な研究案》
その文句に興味をそそられたマユリは、自らの仕事を片付けたあと喜助の部屋へと赴いた。
そして部屋の襖を開けた途端に認めた女の存在。
マユリは直ちに喜助に騙されたと、そう感じた。
襖の向こう、喜助の部屋の中央で女帝の如く四肢を伸ばし寛ぐ女。
マユリが苦手とする人物、四楓院夜一の姿がそこにあったからだ。
夜一と目が合い、直ちに引き返し自室に戻ろうとしたところ。
食事の用意を整えやって来た喜助に捕らえられ、無理矢理に部屋に引き込まれたマユリだった。
そしてそれから始まった酒宴。
喜助と夜一はそれからどんどんと酒を呑み食べ、そして機嫌良く話しを続けた。
その話しの内容は、殆どがマユリの知らない喜助と夜一の幼少期から青年期での出来事。
そして、生娘ならば目を覆って恥ずかしがるような。言わば過激な下ネタばかりであった。
つまらなく感じ、何度か席を立とうと試みたマユリだが、その度に左右に座る怪力の男女に腕を捕まれ敵わなかった。
何故自分が此処に居るのかさえ不明なまま、マユリはもう数時間もこの部屋から出れずにいる。
そしてマユリは、自分が知らない話しばかりを繰り広げる目前の仲良い阿保面男と化け猫女が、大変に恨めしく思えてきたのだった。
*
「で?何故ワタシがこんな無意味な場に貴重な時間を割かねばならんのだネ。
浦原キサマ、先刻言っていた画期的な研究案とはどうなったんだネ!
返答次第では、ただではおかないヨ…?」
マユリがギロリと睨めば、喜助は困った様に眉を下げ呟いた。
「あれ〜?ハハ。ああ、それはですね…。
すみませんマユリさん!
夜一さんがどうしても貴方と呑みたいって言うものでつい嘘を…
あッ!マユリさん危ないっスから、酒瓶投げないで下さっ…、ア、痛いッ!!」
喜助の言葉に怒りが達したマユリは、目前の徳利を持ち上げ喜助の頭めがけて投げつけてやった。
徳利は酒の入ったまま透明の液を撒き散らしながら、ガツンと鈍い音を立て、喜助の側頭部にヒットした。
びしょりと、徳利の酒が喜助の髪を濡らす。
「フン、いい気味だヨ浦原。ワタシを騙すなどいい度胸だネ?」
マユリに睨み付けられ、喜助はしゅんとうなだれた。
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