リクエスト・企画作品置場

□昔話し
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「おおこれは、噂に違わず激しい愛情表現ではないかのう喜助!
クロツチマユリ、お主もそうカリカリせずもっと呑まぬか。
確かに主と呑みたいとこ奴に頼んだのは、ワシじゃからの」



目前で起こった惨劇にも全く気にした素振りも見せず。
夜一はニヤリと不適な笑みを浮かべ、マユリに自分の酒樽を押し渡した。



「結構、止め給えヨ。貴様の様なザルを通り越した女などと酒など呑む気はないヨ!
それから、言っておくがネ。
愛情表現がどうとか、そんな気味の悪い冗談は止めてくれ給え。
人を騙して帰さないなどと、卑怯な男に興味はないヨ!」

一気に喋った後、マユリは再び隣で上目遣いで自分を見つめる喜助を一瞥した。



「むしろ、嫌いだネ」

「マユリさんッ!?」



マユリの言葉に涙目ですり寄ろうとする喜助の体を、マユリは刀の鞘を持って押し戻す。



「まぁそのように堅い事を言うでない。
お主、喜助と恋仲であろうが?
好きな男の過去に興味はないのか?
せっかくお主が知らぬ色々な喜助の過去の話しを、聞かせてやろうと席を設けたのじゃがなあ…」

はてはてと、夜一は金に光る瞳をぱちぱちと瞬かせ首を傾げる。



「浦原…、キサマどこまでこの女に話しを…。
第一貴様から聞きたい話しなど一つもないのだがネ、四楓院夜一」



「そうかのお…?
ちなみに喜助からはそなた達の事、全て聞いておるから安心せい!
ワシは色恋には寛大じゃからの、何も驚きもせんしむしろ応援しておるぞ!」



「……浦原、後で覚えてい給え」

怒りと共に、マユリの顔が少しづつ朱を帯びてくる。
それは喜助と自分二人に対する怒りなのか、それとも喜助との関係をあからさまに言われた事に対する羞恥の現れなのか。



どちらにしても、マユリという人物が存外に可愛らしい者のように思え、夜一は内心微笑んだ。





「とにかく!ワタシは疲れているのでね。
そろそろ自室に戻らせてはくれないかネ?
浦原、キサマへの罰はまた考えておくとするヨ!」



「えっ?そんなー、マユリさん。許して下さいよお〜」

しょぼりと寂し気な喜助に冷たい視線を投げかけて、マユリはスッとその場に立ち上がる。

それ程酒も入っていない為、ふらつく事もなく。
マユリはずいっと部屋の外へと足を運びかけた。





「ほーう…。お主、喜助の過去に興味はないと?
それがこ奴の、女絡みの話しであっても、か?」



襖を開けようとした途端に、背後から夜一の低く重みのある声がかかる。



「興味…?ワタシはこの男の過去などに、毛ほどの興味もないネェ…。
今が在れば、それで充分だヨ」


一言、マユリはそう言い捨てた。



「ほう…。言うではないか」

夜一の金の瞳とマユリの琥珀色の瞳が、瞬間絡まり合う。






「マユリさんッー!?」

そんな中突然、喜助が頓狂な声を上げ。
嬉しそうな笑顔をマユリに向けた。



「なんだネ、浦原?」



しかし何故喜助がそんなに嬉しそうな笑顔を自分に向けるのか、マユリには全く以って意味が分からなかった。







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