リクエスト・企画作品置場

□白い首筋に噛み付く(*)
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とりあえず二日も風呂に入っていないと眉を顰めるマユリに、喜助は自ら風呂の湯を張った。
そして彼が入浴している間に、技局の片隅に置かれた机に食事の用意を素早く整えた。





「さあどうぞ、召し上がって下さい」



喜助が用意したのは、少し水分量の多い白粥と梅干・そして小さな煮魚が数切。
それらを盆に乗せ、マユリの座る机の上に静かに置いた。





「…やけに粗末な食事だネ?」



盆の中身を覗いたマユリは、やや不服そうに喜助の顔を見つめた。



「意地悪じゃないっスよ。マユリさん暫く食事されてないでしょ?そんな空っぽの胃袋じゃ、食べた物もまた吐いてしまいますから…」



そう言って喜助はゆっくりとマユリの右横に椅子を移動させ、自らそこに腰を掛けた。



「それもそうだネ…」

マユリは素直に頷き、目前の食事を手を付け始めた。











用心深く粥を少しずつ口元に運ぶマユリを、喜助は近くでうっとりと見つめていた。



マユリの薄い唇が開き、やんわりとふやけた粥が口内に運ばれる。
瞬間見える彼の紅い舌と、生え揃った白い歯列。
数回の噛み合わせの度に動く薄い顎と頬。

そしてそれを飲み込む度に上下する、軟骨の浮き出た喉元。





生きる為の行為。





食物を摂取するという、極自然なマユリのその姿。
ただそれだが、喜助に様々な悦びをもたらすのだった。





「吐き気は大丈夫ですか?マユリさん」



「…ああ」



喜助のねとりとした視線に、マユリは食物を運ぶ手を止めチラリと喜助を見遣った。



「そんなに楽しいかネ?ワタシが食事する姿が」



「ええ。とても」





瞬間絡まった、二人の視線。
だがマユリはすぐに、そこから目を逸らした。



「昔から良く言われませんか?食べ方がヤラシイって」



「 有るヨ 」



目を伏せたまま、マユリはそう答えた。



「本当?誰に」



「…いま」



喜助は笑った。

何気ない自分の言葉にさえ答えを返すマユリの機嫌の良さに。

そして久しく忘れていた、高揚した己の心にも。





「マユリさん」



「 何だネ? 」



変わらずマユリは、喜助から目を逸らしたまま黙々と食事を摂る。



「アタシ、ずっと寂しかったんスよ?」



そう言いながら、喜助はスルリと指先でマユリの喉元を撫で付けた。



「今、食事中だヨ」



「 じゃあ、後なら…? 」



マユリからの答えはなかった。



食物を口内に放り咀嚼し、えん下する。
マユリのその一連の動作に、結局最後まで喜助の意識は魅入られてしまった。

同時にムズムズとした欲求が、躯の奥から這い出してくる感覚に。喜助は思わず自嘲するような笑みを再び浮かべた。





「…今日は、しないヨ」



全ての食物を胃に納めた後、マユリはそう一言呟きゆっくりと喜助を見つめた。

細められたマユリの瞳。
己の下心を知られたのだろう。
しかし喜助はそれを隠そうとは思わなかった。



「ははッ。流石のアタシでも、今日のマユリさんには無理させられまんからね」



喜助はわざと、そうはぐらかしてみた。
何故なら今日は、互いにとても気分が良いのだから。







「 …では逆に」



ガタリと鳴った、椅子の音。







貴様がワタシを喰らえと。


喜助の白い首筋に、マユリの牙が噛み付いた。







終。
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