リクエスト・企画作品置場

□朱の首輪(*)
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全く以って、何故自分はここまでこの男に甘いのだろうかと
マユリは内心苦々しい思いで一杯だった。

今日この時まで、自分は喜助に対し誰からも非難されるような行為は何もしてはいない。

それなのに目前で項垂れるばかりの男の姿を見ると、何故だか少しの罪悪感と何かを譲歩してやらなければならないような、そんな気持ちになってしまう。

躯を求められるのも訳の分からない愛情表現を突き付けてくるのも、大概がいつも男の方からで。
そしてそれが受け入れられない時には怒るのではなくいつもこうして身を縮め、まるでか弱い被害者の如く振る舞う身勝手な男。

全く計算高い策士のような、迷惑な男だと分かっているのだが。
その悲しげな瞳を向けられると結局は全てを受け入れてしまう自分がいた。

『それが愛ってやつでしょ?』

何時か男が甘い声音でそう囁いた記憶は、気持ちが悪いので消去した筈だったのだが…

認めたくはないが、今はこの男の我が儘を聞いてやろうと思える程に。
どうやら自分も喜助の事を気に入ってしまっているらしい。
愚かで馬鹿者であるのは自分も同じであるのかと、マユリは彼方を見上げ小さく息を吐いた。



「浦原…仕方がないネ。それは取り敢えず、ワタシが預かっておくとするヨ」

「ふへ?…本当っスか」

「嗚呼…、お前はそれを所有印と言ったがネ。
別に身につけなくとも、ワタシが持っていれば良いのだろう…?」

「はッ、はい!受け取って下さるなら、今はそれで構わないっスよ!!」



マユリの言葉にコロリとその表情を変えた喜助。
全く調子の良い男だ。

しかしそんな男に躍らされる自分も大した馬鹿者だと、マユリは自嘲ぎみにニタリと口角を上げた。



「こい、喜助。馬鹿な茶番に付き合ってやった変わりの愉しみ位は…ワタシにくれるのだろう?」


「マユリさんッ、あぁもうっ本当に、大好き!!」



嬉しげに頬を染め飛び付いてくる大きな躯をした、しかしまるで餓鬼のような恋人。

いつの間にか少しずつ懐柔されてしまった己の心と躯をもどかしく感じながらも
マユリはこれから喜助に与えられるであろう羞恥を容易く超える快楽と劣情に、身を委ねるべく静かに瞳を閉じた。








受け取った朱の首輪



そんなモノでワタシの何をも奪い、繋ぎ止める事はできはしないのだヨ



しかし仕方がないネ



いつかワタシが最高の作品を創り、完璧に近い研究を成し遂げるその時まで

お前が今と変わらずワタシの傍らに存在していたならば

その時こそ、この首輪を付けてやろうとしようかね

全く馬鹿げた話しだヨ



さて、その時お前は一体どんな顔をワタシに見せるのだろう





終。
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