主文

□ファースト・コンタクト
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「あのぅ〜初めまして…。アタクシ新しくこちらの看守になりました、浦原喜助と申します。
以後よろしくっス」

「…」



アタシは努めて明るく彼に話しかけてみましたが、返事がありません。

「あのぉ〜聞こえてらっしゃいますぅ…?」

「…」


やはり返事がありません。彼は一点を凝視するばかりで、こちらを見ようともしません。



「貴方は、随分と聡明な科学者なんでしたよねぇ〜。色々と興味深い研究内容、聞かしていただきましたぁ〜。
アタシも研究者の端くれなもので、気が合うかもぉ…何て」

ハハハ、と。アタシの乾いた笑いだけが虚しく響くのでした。

「それで、ですねぇ…」

と、尚もアタシが何を話そうかと数分考えていると。

突然に彼はチラリとアタシを一瞥し、静かに話し出しました。



「……ほぅ。君も科学者なのかネ」

さほど興味無さげな、抑揚の無い口調。
どうやら彼に聴覚・言語障害はなかったようです。


「そうなんすょ〜、まあたいした実験なんて、してませんがねぇ…」



「また随分と、口の軽い奴が来たものダネ…」

彼は一度アタシの頭から足先まで観察すると、独特な抑揚のある言葉を発しました。


「それに、私は君の言う
(面白い実験)とやらの結果で、このような扱いを受けているのダがネ。」


ジロリと動いた眼球は、灯の中でも分かる鈍い金色。そしてまた、興味を無くしたとばかりに目線を他に移してしまいました。


「貴方は今の処遇に、ご不満ですか?」

「貴様には私が楽しく暮らしている様に見えるのカネ?…まァ、凡人達に私の研究の重要性を理解できる筈もないガ。
ういいから、あちらへ行ってくれ給えヨ」



「いやぁ〜ハハッ…」


それから取り留めの無い幾つかのアタシの話しは全く無視され、虚しくなってきた頃には隊員からの呼びが掛かきたのでした。



「では、今日はこれで失礼するっす…。また来ますね、涅さん」


微妙な空気の中、アタシが背を向け帰ろうとすると、背後からザリッと人の動く気配がありました。


「浦原と言ったか。
勝手に人の名を呼ばないでくれ給えヨ…全く、不愉快だネ」

不快を含んだ、だが淡々とした彼の声です。

「すみません、また来ますね…」


「必要ないヨ」

「アタシの仕事っすからぁ〜すみません。
でも、アタシは貴方に興味が沸きました。ここでの仕事も楽しくなりそうっス」

「私は君に興味は無いヨ…」

「そりゃ、残念すねぇ〜。でも、貴方に名前を呼んで頂けて光栄っすよ」

「…」


それ以上、彼からの言葉は無く、アタシは彼に微笑んでその場を後にしました。




それから数年後、アタシが十二番隊隊長の命を受けるまで、彼とのこんなやり取りは続くのでした。







終。
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