主文

□解放の刻
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―――《蛆虫の巣・監獄》
浦原は涅に、自らの提案を静かに・丁寧に聞かせてみた。


「興味はナイよ…」

「はィ…?」


鉄格子の向こう、変わらぬ青白い顔を無表情に。
涅は浦原に冷たく言い放った。



「何故っすか、涅サンだって外に出たいでしょう??研究だって好きなだけ、できるんスよっ!!」

思わぬ涅の返事に、浦原は思わす頓狂な声を出してしまった。


この監獄での数年、浦原の看守としての半ば一方的なコミュニケーションの成果ではあるが、涅の機嫌が良い時などは過去の研究結果など、話し合える関係を築けていた…筈。

にべもなく、あっさり断られるとは浦原の予想の外であった。


「大体、私ガ貴様と共に仲良く研究をするとでも思っているのカネ?
しかも何だいその隊長羽織りは。まさか貴様ごときが新隊長になったんじゃアあるまいネ…?全く、信じられんヨ」


「いやぁ〜何となァく隊長も引き継ぎちゃいましてぇ…、それよりそうハッキリ断られると悲しいっスよ〜」


浦原は困ったように眉をヘラリと下げ、上眼遣いに涅を見遣るが、涅の表情は不機嫌そのものであった。





「私は此処から出るつもりはないヨ」

「涅サンたら、そんな事言わずに!貴方のその技術と知識、こんな場所で腐らせるのは勿体ないスよ…」

「貴様には関係ないヨ」

「そこを何とか!!」
浦原はわざとらしく、涅の前で手を合わせる。



「大体、貴様のそのヘラヘラした態度が気に入らないんだがネ。
貴様のような者の下で働く位なら、此処で静かに新しい研究を思案する方が、余程有意義だヨ。」



「そんなぁ〜酷いッスよぉ…」

フンッと涅に一瞥された浦原は、カクリと肩を落とした。

そして暫くの沈黙―。






「涅さん―、」



突然、うなだれていた浦原が顔を上げた。


先程より随分と低い浦原の声色に、涅がピクリと反応する。



「アタシには、貴方の力が必要なんス。
そして最近また、たな虚も発見されている。
この世にはまだまだ、新しい謎で満ちている―。
…アタシが隊長であることがご不満ならば、実際に貴方の眼でご覧になればいい。アタシの実力を…」


浦原は突如、霊圧を開放した。


「ほぅ…」



今まで感じた事のない浦原の鋭い眼の光りと、重い霊圧。

それはビリビリと涅の皮膚に纏いつき、涅は眼を見開いた。



「面白いことを言うネ。貴様、そう言うだけ力の実力と科学者としての知識…、持ち合わせていると?」


「ですからそれは、今は内緒っス。この先アタシも、涅さんの研究対象になるって事っすかねぇ〜」

ニヤリと、微笑む浦原。


「成る程―。しかし私は、利用価値のない検体は直ぐに処分するのだガ…それでも構わないと?」


「勿論。研究対象物になるのはアタシも初めての経験ッスからぁ〜。正直興奮しちゃいますよぉ」



「…貴様も変わった死神だ。私も少しだけ、貴様に興味が湧いたよ、浦原喜助」
ニタリと、涅が奇妙な笑みを浮かべる。



「そりゃ、嬉しいッス」

蛆虫の巣で出会って以来、涅が初めて笑みを浮かべた瞬間だった。






涅マユリが解放の日を迎えるのは、後少し先の事であった―
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