主文

□なんで?
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「ふぅ…」



浦原は小さく小さく息を吐くと、涅の後姿をソロリと眺める。
少し猫背ぎみな、独特の空気を纏う背。


浦原が涅をこの開発局に連れて来て、もう随分と時が過ぎた。
当初、涅の奇異な姿と危険因子として投獄されていた事実により、隊員は皆遠巻きに彼の様子を伺っていた。

しかしその才知と技術に皆驚嘆し、今では彼を尊敬する者さえ多い。


事実今も。彼がいれば隊長の自分がいなくとも、技局が揺らぐことはないと浦原は考えている。


しかしそれは同時に、彼の常識を逸脱した研究の動向を、適切に判断し処理する者も必要とした。




「…何か用かネ、浦原」


「…へっ?」

突然に涅が振り向き、浦原に尋ねた。


「いえ〜何も…。あッ!マユリさんこの所休んでおられないから、ちょっと心配かなぁ〜。なんて?」



浦原は焦った。なぜか。



「用がないなら、そんなにこちらを見ないで貰えるカネ?
気が散って、研究に集中できないヨ」


「すみません…」

涅はジロリと浦原を一瞥し、クルリと大勢を直し再び研究大勢に入った。






(びッ…ビックリしたぁ)
浦原の心臓は、焦ってバクバクだった。



自分は、そんなに彼を見ていただろうか?


阿近も言っていたが、涅が来てからというもの自分はちょっとおかしいかもしれないと、浦原は考えた。



研究中、どうにも涅に気が向いてしまう。
彼が考え、研究に打ち込む姿を見るのは実に楽しいものだった。


「これはこれは…」

まさか、まさか―。


この胸の高鳴りと幸福感。


誰かを気にして仕事が手に付かない事など遠い昔、若い頃のいつかのようだ。



「いやいやいやいや…!」
まさか、自分が?



再び涅の背中を盗み見て、高鳴る心を抑え浦原は思った。





深く、考えるのはやめよう





終。
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