主文

□ひよ里さんの憂鬱
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《技術開発局・解剖室》


突如響き渡ったひよ里の怒声に、研究員達が縮み上がる。



「おい浦原、マユリ!お前ら二人揃って変な声出しよって解剖すなや。忙し言うから手伝ってやっとんのに。ホンマ、きっしょいわ!!」

フーフーと顔を赤らめ怒るひよ里は、思いきり喜助の尻に蹴りを入れた。



「あたたっ!何するんッスかひよ里さん!解剖中なんすから、止めて下さいよ」



思い切り尾骨にヒットした蹴りに、浦原は呻く。
検体解剖中の為、浦原の両手は塞がれ、身体は思うよう動かせない様子だった。


「うるさい変態!!」


「なぁに怒ってるんスか?アタシ、マユリさんとお仕事してるだけっスよ〜」

ね?と。浦原はひよ里に血糊の付いた両手を見せ、ニンマリと笑みを浮かべた。


「更にキモっ!喜助、特にお前や!にやけた顔でグロいモンいじくりなや。
しかもその顔、絶対変なこと考えてるやろ!?」



「はて。変なコトってなんスかねぇ、マユリさん?」



「…全く、五月蝿い小僧だネ。
それより喜助、キサマの検体の扱いは雑過ぎるヨ。
それでは視神経が潰れてしまう…、もっと丁寧に剥離し給え」



騒ぎの中、黙々と解剖作業を続けていたマユリは無表情にひよ里を一瞥すると、興味なさ気に呟いた。

「小僧いうなや!」

「五月蝿いネ、邪魔だヨ」

「お前はめっちゃ、ムカつくねん!!」


「まぁまぁ、ひよ里さん落ち着いて…!
それに〜。確かにアタシ、マユリさんのお仕事中のお顔や繊細な手つきを見てると…。ハァ…
つい、興奮しちゃうんスよね」


「やっぱり変態やんけ!」


どこかうっとりと、艶っぽい声で喜助が呟く。
そのぼんやりと恍惚な表情に、ひよ里の体は一気に寒気立った。



「いや〜すみません、つい妄想しちゃって。
それにしてもひよ里さん、やっぱり女の子!うぶッスねぇ…。
此処ではアタシ達いつもこんな感じなんでぇ〜、早く慣れて下さいねっ」


ウィンク付きの浦原の笑顔に、徐々にひよ里の顔は怒りから侮蔑の表情に変わっていった。





グチャグチャと嫌な音を立てながらも無表情に作業を続ける涅と、そんな涅をうっとりとした目で見つめる浦原。


浦原が何を妄想してるのか、ひよ里は想像しただけで寒気を覚え、思考を遮断することにした。


(やっぱりコイツら二人共、うちには理解できひんわ…)


ひよ里は心中呟き、早く此処から開放されることだけを祈った。









帰ったら、平子に会いに行こう。
数十発も殴ればこの苛々も、きっと落ち着くだろうから。





終。
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