主文

□失われる感情
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可笑しいとは思わないかネ…



マユリの言葉を聞き入れながら、阿近はその深意を探る。



「なにが、ですか…?」


マユリを見つめながら、問い掛ける阿近。



「浦原だヨ。奴は罪人だった私を、巣から引き上げた。ところが今度は逆だ。
奴が罪人となり消え失せ、私は此処に在る―」



「隊長は…、浦原さんが犯人だと。
本当にそう思っているのですか?」



「…それは解らないヨ。
ただ…、科学者とは他を逸脱した精神を持つ者が多い。一つその思考が正道を外れると、常人には決して理解できない奇行を起こすものだ。
浦原が科学者であるのなら、奴が罪人となる可能性は零ではない。私達は、そういう生き物なのだヨ。阿近」



「……」



「全く。馬鹿者だヨ」



瞬き一つせず、マユリは語る。



「生憎私は奴が嫌いでね。清々したんだが―、」



そんなのは、嘘。



二人が恋仲だということ位、幼い阿近にも分かっていた。



「隊長…?」



無表情に語るマユリの瞳が、ごく僅かに揺らめいたことに阿近は気付いた。

戸惑い怒り哀しみ、全てが交わったような、そんな彼の瞳を。



阿近は自分の小さな胸が締め付けられるような、そんな痛みに眉をひそめた。





「私は奴を救う術を持たない。そのことがとても辛いのだヨ、阿近。」





ふっ、とマユリが笑った。


「涅…隊長ッ―!」



ブワリと、自分の両目から涙が伝うのを阿近は感じた。

マユリの痛みが伝わるようで、阿近の胸はぎゅうぎゅうと痛み涙が止まらない。



「なぜ泣いているのだネ、阿近?
全く、まだまだ子供なのだね」



マユリの優しい声に、遂には阿近の口から小さな鳴咽が漏れた。






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