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□其の行方
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ことの始まりは数時間前―
研究室でいつものように実験をしていたマユリの元に、ふらふらと喜助が歩み寄ってきた。
『一緒に資料、見つけて貰えませんかねェ〜?』
『イヤだヨ…』
しかし喜助の頼みを、マユリはバサリと切り捨てた。
他人の為に貴重な時間を提供する必要性が、なかったからだ。
しかし結局、《隊長命令》という喜助の理不尽な言葉に、苦々しくもマユリは従った―。
だが。喜助は書庫についたきり何も喋らず、適当な資料を机に並べたきり読もうともしない。
マユリは怪訝に思ったが、気まぐれな奴の事だと、自分勝手に興味ある本をあさることにしたのだった。
「全く…。私が忙しい時間を割いてやったのに、とんだ時間の浪費だネ!貴様の考えはさっぱり理解できん、迷惑だヨ」
一時間ほど経過し、様子の変わらない喜助にマユリは毒づく。
自分を牢獄から連れ出した浦原喜助という死神。
最初から、いつもヘラヘラとだらしの無い男。
研究者として見ればその才を認めてやらんではないが、普段は何を考えているのか全く掴めない、他に何の取り柄もない男だとマユリは思った。
「マユリさん…アタシはどうしたら貴方と二人っきりになれるかって。ず〜っと、考えていたんスよ」
突然にサラリと、喜助が呟く。
「…何を言いたいのか、分からないヨ」
「そのままの、意味っスよぉ〜」
ニコリと微笑む喜助。
しかしマユリは喜助に半ば強制的に此処へ連れられた上、意味の解らない事を言われるものだから、苛々が増大していた。
「特に探して欲しい物がないなら、私は帰らせて貰うヨ。」
「それは、駄目っすよ〜」「なんだとっ…?」
「フフッ。だって折角マユリさんと二人きりになれたんですから。
もう少しお話し、しましょ」
上眼使いに、喜助が微笑む。
「気味が悪いコト、言わないでくれ給えヨ」
「酷いなぁ…。つれないんですね、マユリさんたら」
「貴様と話していると、頭が疲れるヨ」
「…―。」
「分かったら、早く調べ物を終え給えヨ。大事な時間が勿体ないのだからネ!
おいッ、聞いているのか浦原!」
「………」
マユリの言葉に、沈黙した喜助。
「全く…理解できない奴だ。付き合いきれん、私は失礼するヨ」
沈黙する喜助を一瞥し、マユリは技局に戻るべく、探しあてた実験の資料などをまとめ始めた。
「本当に、つれないお人ですねぇ…」
ふいに低い、喜助の声。
続いてズシリ、と。
書庫を纏う空気が重くなる。
それは喜助の、突然の霊圧開放だった。
「何だネっ!」
反射的に身構えたマユリ。
浦原は穏やかな笑みを口元に浮かべ、マユリを見つめる。
「マユリさん。アタシのお願い、聞いては貰えませんか―?」
突然、ユルリと立ち上がる喜助。
その眼は鈍い光を反射した。
「浦原…キサマ!」
ゆるゆると近付く喜助の異様な霊圧。
その時初めて、マユリは喜助の眼に揺らめく影を捉えたのだった。