UNDER

□恐ろしきは恋心
2ページ/8ページ




マユリは蛆虫の巣から出て浦原と共に行動するようになり、この男について気付いたことがあった。





浦原が死神として想像以上に強い力を持っていること。


飄々としながらも思慮深く計算高いその内面。


科学者としての高い知識。


そして、存外に女に好かれるようだということ。






隊長クラスで体格も程に良い。

優男を演じ人当たりの良い性格。


科学者と言うミステリアスな背景。







加えて少し垂れ目がちで童顔な浦原の顔は、女の母性本能をがちりと掴むにいい役割を果たすらしい。




マユリはこれまで何度も、浦原に群がる女達を傍観してきた。





だから浦原が自分に告白してきた時も、それ以上の行為を求めてきた時もかなりの驚きを感じた。



嗜好の変化か、はたまた単なる男の興味の範囲か。



どちらにしても、貞操観念の乏しい自分には興味のないことだと、
マユリはそう考えていた。





しかしマユリは徐々に、自分もこの女共と同じく軽い気持ちで浦原に扱われているのだろうと考え、不明な苛立ちを覚えるようになっていった。













「いやぁ〜、おかしな所。見せちゃったッスね」


少女が立ち去ると、浦原はニヘリと照れたような笑みをマユリに向けた。





「別に、いつものコトだろう?
キサマの色事に興味はないヨ」



フンと浦原を一瞥し、マユリはズカズカと隊舎に向かって歩き出す。









『全く、この男と一緒に外に出たら虫のように女が寄ってくる。
本当にぎゃあぎゃあと、煩いことだヨ…』


マユリは心中苦々しく呟きながら、早くこの場を立ち去りたい気持ちで足を進めた。




「……」


「ちょっ!待って下さいよ、マユリさんッ」



後ろから、早足で進み始めたマユリに驚いた浦原の声が聞こえる。






嗚呼、苛々する―。




マユリは構わず、凄い速度で歩き続けた。









「マユリさんっ!!」


「ッ…!」




突然背後から左腕を強く掴まれ、マユリは驚き立ち止まる。

振り返ると、少し困った表情で自分の腕を掴んでいる浦原の姿があった。








「何だネ、浦原…」


マユリは苛立つ気持ちを抑えつつ浦原を睨み据える。
掴まれた左腕が思いの他痛く、マユリの苛立ちを更に煽った。



「離し給えヨ。何のつもりだ…?」




「マユリさん、何か怒ってらっしゃいます?」


浦原は尚も困った様に小首を傾げ、掴んだマユリの左腕をグイッと引き、己の方へ近付けようとする。



「触るなと言ってるんだヨ!」



バシリっ―!

怒りが頂点に達してしまったマユリは、自分の腕を掴む浦原の手を叩き、勢いよく振り払った。




あっ、と呟き。
浦原は振りほどかれた手を空中で静止させ、マユリの怒った態度に驚いた様子だ。





「フン…。私は忙しいのでね、先に隊舎に戻るヨ。
キサマはゆっくり此処をうろついて、女と愉しんで帰ればイイヨ」



そう言って少し呆然と立ち尽くす浦原を見れば、マユリの苛立ちも何だか落ち着いてきたような気がした。





『この男に関わるのはよそう』


マユリは浦原を自分の利に合わない相手と思うことにした。





誰かの為に自分の心が乱されるなど、マユリにとって最も不必要なことだった。






次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ