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□恐ろしきは恋心
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マユリはもう一度浦原を睨みつけるように見上げると、踵を返し隊舎へと足を進めた。





「マユリさん…」

背後で低く、浦原が彼の名を呼ぶ。





そして次の瞬間、浦原は背後からマユリの死覇装の袖を掴み、そのまま彼の両手首を一括りに握り込んだ。




「おいっ!浦原、何をするんだネ!?」


ギリギリと後ろ手に両方の手首を握られ、マユリは動きが取れない。

首を捻って背後の浦原を見れば、またもや困った顔で片手でポリポリと自分の頭を掻いている。



「クソッ―!」





浦原の安穏とした表情と、たかが片手で自分の両手が拘束されている事実に、マユリの怒りは再燃してきた。



「離せ浦原ッ!キサマ殺すヨ!!」














殺す殺す殺す殺す殺す殺す、殺ス…コロスっ!!





マユリにはもう、自分が何に対してこんなにも怒っているのかが分からなくなってきた。






浦原の告白、誘い。
女、笑顔、肉体的な自分の力の弱さ。



何もかもがごちゃごちゃに、マユリの神経を侵す。








「マユリさん、こっち来て…?」


低いが、落ち着いた男の声で浦原が歩きだした。




「くっ…!痛いヨ、浦原っ!!」


両腕を後ろ手に拘束されたまま、浦原は進めという。腕を振りほどこうにも、今度はガッチリと戒めてられているらしく、びくりともしない。



こんな姿を他の隊士に見られたらと思うと、マユリの感情は激しく波打ち怒りに震えた。





暫く押されるように歩いていくと、十二番隊隊舎の正門に近付いてきた。


そして門番が二人に気付き頭を下げる瞬間に、浦原はマユリの両手の戒めを解いた。




「キサマ…!」

握られた両手首の皮膚は軽く紅い跡がつき、ジンジンとした痛みを伴った。


そのまま浦原の手で背中を押され、門をくぐる。






ギギッと門が閉まった瞬間、マユリは浦原の頬を思いきり平手で叩いた。



「ッ!あたたっ…、何するんスかマユリさん?」


浦原は少しもよろめくことなく、ヘラリと微笑んだ。




「五月蝿いヨ!キサマといるとアタマが腐っていきそうだ。
もう私に近寄るんじゃあないヨ!!」


殺気を篭らせた眼で、マユリは浦原を睨む。

しかし浦原は少しも臆せず、むしろニヤニヤとした笑みを口元に浮かべていた。





「何が可笑しいのかネ!」

「いえ、貴方が余りにも可愛いらしいもので…つい」


ニンマリと微笑んで、浦原は再びマユリの片手を掴んだ。



「おいっ!キサマ私の言った事を聞いてないのか?
私に触るなと言った筈だヨ!!」




反射的に、マユリは掴まれていない左手で己の斬魄刀に手をかけた。




「おっと、危ないっスよう!そんな刀で切られちゃ、貴方を抱きしめられない」


ふざけた口調を保ちながらも、浦原は空いた手でマユリの斬魄刀の鞘を抑えつけた。




「浦原っ、本当に殺すヨ」

全ての動きを封じられ、マユリのプライドは傷付けられていた。




馬鹿にしたような態度ばかりを取る、しかも自分より力の強い男。

そんな奴に好き勝手に振り回されるつもりはない。





マユリは浦原という男に、少しでも身も心も許してしまった自分を悔いた。







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