ももいろ青春ロード

□〜始業式〜
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 〜始業式〜


けたたましい音が隼斗と姉の部屋に響き渡った。どこにでもある朝の光景、目覚ましが鳴っている。

「うるさーい!隼斗、止めてよ!」
「ん…とめ…られないぞ、なんで?」
「寝ぼけるな!早く止めてっ」
「んー」

二段ベッドの上に目覚まし時計を置いているため、上に寝ている隼斗が止めなければならないのに本人はまだ頭が起きていない。目覚まし時計を無視して寝ている隼斗も、姉がしょうがなくそれを止めるのも日常茶飯事だ。

「まったく…遅刻するよ?」
「ねむい…起きたくない」
「今日は始業式!ほら起きてっ!」

普段はだらし無い姉だが、学校に遅刻するわけにはいかないから起きることができる。それに対して、マイペースな隼斗は学校でもお構いなしに寝ている困った所がある。隼斗が遅刻せずに学校に行けるのは、姉のおかげなのだ。

「何のために隼斗の所に時計置いてるかわかんないよ」
「隼斗は朝が苦手だもの、しょうがないでしょ?」
「でも…お母さんが隼斗起こしてよ」
「隼斗は友里だから起きるの」

朝ご飯を食べながら姉は母に隼斗のグチをこぼしているが、隼斗はそれを聞かずに眠そうに食パンにかじりついていた。

「こんなので電車通学できるのか心配だよ」
「昨日できたからできるよ」
「これから毎日なのに…」

姉の言葉への返事がいかにも隼斗らしい返事で、朝の吉村家を和ませた。今は7時半すぎで、隼斗の家から学校まで30分かかるため、遅刻しないためには7時45分に家を出なければならない。

「隼斗、あと15分で出るよ」
「うん、わかってる」

食パンをくわえた隼斗はのんびりとリビングを出て行く。それを姉が追いかけた。部屋でまだ新しい制服に腕を通す隼斗を見てもまだ中学生の頃と何も変わらないと姉は思った。

「ん?何見てんの?」
「え、あんたが高校生になったんだなって見てただけ」
「あそう」

特に関心なさそうな返事をして隼斗は鞄を掴んだ。動き出すと早いから、そんなに頼りないわけではない。

「あ、置いてく気?!」
「?なんで?一緒に行くなんて言った?」
「言ってないけど…同じ学校なんだからいいでしょ?」
「…いいよ」

隼斗の素直なところは幼い頃から変わらず、聞き分けがよくて姉にも反抗しない。というより、ただおだやかな性格なのだ。

着慣れた制服に着替え、ドアの前で待つ隼斗に「先に靴履いてて」と言って鞄を持った。隼斗が軽くうなずいたのを見てから部屋の中を一周眺めると、コンセントに充電器がささっていた。コードをたどると、隼斗の携帯が充電器についたままになっている。それを外して隼斗を追いかける。

「隼斗、携帯忘れてるよ」
「あ、ほんとだ。ありがとう」
「しっかりしなさい、新入生」
「うん」

隼斗は真っ黒い自分の携帯を受け取り、大事そうに一撫でしてからポケットにしまった。大事なら忘れるなよ、と心でつぶやいて靴を履いた。

「行ってきます」
「2人とも行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」

玄関を出たところで見覚えのある姿が目についた。隼斗は足を止めて、その姿をぼんやりと眺めた。

「どうしたの?」
「あ、いや。あれ…」
「ん?」

家の隣に最近新しく出来たマンションがある。そこから姉と同じ制服を着た背の小さい女子が出てきた。その後ろ姿が昨日の帰りに見た姿と同じだった。

「あら、近所にいるんだねー」
「たぶん、同じクラス」
「え!すごい偶然じゃん」
「うん」

それ以上この会話は弾まなかった。駅まで歩きながらあれこれと学校について話す姉の声を適当に受け流し、前を歩く彼女の背中を見つめていた。

その彼女と隼斗は電車の両が違ったものの、同じ電車だったから学校に着くタイミングも同じだった。姉と別れ、教室に入る時に振り返ると彼女が数歩後ろを歩いていた。話し掛ける気がない隼斗は、そのまま教室に入る。ドアを開けたままにして。席までのこのこ歩き、鞄を机に置いて外を見る。

「3階でも意外に見晴らしいいね」

突然の背後からの声は明らかに自分に向けられたものだ、と隼斗は気付き振り返った。にっこりと笑いかけていたのは、隼斗のあとに教室に入ってきた<渡辺さん>だった。

「あ、うん」
「名前、渡辺美穂ね。昨日聞いたと思うけど」
「吉村隼斗です。て、敬語じゃなくていいか」
「そうだよ。美穂って呼んで?渡辺じゃいっぱいいるからさ」
「オレは…好きに呼んでいいよ」
「じゃあ隼斗」

これが初めて隼斗と美穂が喋ったことだ。なぜかこの時から美穂と相性がいいと隼斗は思った。いや、昨日の時点でもうそんな気がしていた。

お互い椅子に座り、隼斗が窓に背を向けて美穂のほうに頭をひねる形で会話が再開された。この形が話しやすいから定着することになる。

「てか、近所だね」
「近所というか、隣のマンションに住んでるんでしょ?」
「うん。昨日の帰りにコンビニ寄ってごまかしたのに、今朝ばれちゃったからなあ…残念」
「残念って…隠したかった?」
「いや、別に。もっと面白くばれたらよかったなって思うくらいだよ」

美穂の口調からすると、先に隼斗の家を知っていたように聞こえる。それを疑問に思って聞くと、美穂は笑いをこらえながら答えた。

「いや、だってさ。携帯に集中して文字を打つ学ラン男子、しかもボタン全部しめてる…面白いから追いかけたら同じ学校同じクラスだからおかしくて」
「え、それ昨日の朝?」
「そう。うちが家出てった時に隣の家から出て来て、前通過して行ったの」

思い返せば昨日、家を出たときブログを書いていた。そりゃあ、言葉遣いを気をつけるから集中していたが、まさか見られていたとは思わなかった。隼斗はがくりと肩を落とした。

「まあまあ。これもなんかの運命でしょ」
「確かにね」
「仲良くしようよ。はい、握手」

手を差し出され、握手をすると美穂の手は身体に合った小さな手で、でも力強く握ってきた。

その直後、佐々木先生が教室に現れ、始業式に向かった。並び順は出席番号だから、始業式中何度も寝そうになる隼斗を後ろから美穂が突いて起こした。背は小さいものの、お姉さん気質のようだ。

始業式が終わり、教室に戻ると先生が笑顔で「自己紹介してもらうよ」と言った。1番から順番だと隼斗と美穂は、順番がまわるまで暇だが、これは慣れたようなもの。

「はい、じゃあ1番から、立って自己紹介してください」
「相田優子です。理科が好きなのでここに入学しました。よろしくお願いします」

こうして自己紹介が始まった。34人が自己紹介をするのを待つ間隼斗は何を言おうか考えることにした。動画サイトに投稿してます☆などと言えるわけがなく、隼斗にしては真面目に悩んでいた。

「岩渕愛美です。よく名前をまなみと間違われます、あいみです。よろしくお願いします」
「梅澤誠司です。ネットサーフィンが趣味だったりします。よろしくお願いします」

ネットサーフィン、という単語に隼斗はびくりとした。動画サイトとは言っていないものの、ネットという世界は意外に狭いからネットアイドルの存在を知っているかもしれない。眼鏡をかけた優等生キャラな誠司は要注意人物になった。

隼斗は物ぐさだ。半分くらいまで進んだ時にはもう窓の外を見ていた。立ち上がったそのとき思っていることを言えばいい、と物ぐさを発揮した。そして順番がまわって来て、静かに立ち上がった。

「吉村隼斗です。よくマイペースだと言われます。よろしくです」

言ってから、空を見るのが好きです、とか歌うのが好きです、とか別のことが浮かんできた。隼斗が着席すると同時に美穂が耳元で「マイペースは見ててわかるし」とつぶやいて立ち上がった。やはり即興だと後悔するのだ。

「渡辺美穂です。東北出身だから言葉がなまってたら指摘してください。よろしくお願いします」
「はい、お疲れ様でした。この36人が仲間です。少しずつでいいから、お互いを知っていこうね」

出た先生節、と思いながら隼斗は教室を見回した。誠司とは席が遠いから、早いうちに接点を持つことはないだろうと推測した。

「じゃあ、今日はあと委員会決めて帰りましょう」

先生は黒板にクラス委員や係、学内委員などを書き出した。さほど中学の時と変わらないから、隼斗は中学でもやっていた図書委員にしようと考えた。教室の中が少しだけざわついた。

「一応ひとつずつどんな仕事か説明すると…」

図書委員は、図書室の清掃と本の貸し借り管理などが仕事だとわかったら、ほかの委員の説明を聞かないのは隼斗だ。みんなが熱心に聞く中、2人で委員会をやるから相方は誰になるだろう、と誰よりも先にこのことを考えていた。

「質問はないかな?まず学級委員からきめようね」
「ねぇ」
「なに?」

図書委員はまだかと待ちわびる隼斗に後ろからこそこそと美穂が話し掛ける。

「何にするの?」
「図書委員」
「似合いそ」
「美穂は?」
「会計」
「金好き?」
「間違ってない」

思わず笑いそうになった。テンポのいい会話で、一言が短いのに話しが成立していたから。

長丁場になるかと思った学級委員も無事決まり、美穂は希望通り会計になった。司会進行が先生から学級委員に変わり、学内委員決めに移った。美穂は会計なのに借り出されて、ノートに黒板に書かれたものをうつす仕事を与えられた。

「次、図書委員やりたい人いますか?」
「はーい」
「はい」

真っ先に返事して手を挙げた隼斗のあと、もう一人の声が聞こえた。

「吉村くんと梅澤くんで決まりで」

書記が黒板に名前を書く。梅澤くん、とはさっき隼斗が要注意人物に認定した誠司のことだ。まだももたんを知っていると決まったわけではない、まあいいや。隼斗はそう思って、とりあえず図書委員になれた喜びを感じていた。

「みんなのおかげでスムーズに決められました。これから頑張っていきましょう」

学級委員の2人がペコッとおじぎした。あの2人、名前なんだっけと隼斗が首を傾げている間に先生が再び前に立った。

「お疲れ様ね。4人は横で待ってて。本当にスムーズに決まったのはみんなのおかげ。スムーズすぎて時間余ったから、同じ委員や係になった人と顔合わせしてみようか」

ん?とさらに首を傾げ、先生の言った言葉を何度も脳内で繰り返した。先生は楽しそうに「座席表見て捜して話しかけて」と言っている。黒板の前で学級委員になった美穂を含む4人が挨拶しているようだ。ぼやぼやしているうちに後ろから肩を叩かれた。

「吉村くん、だよね?」
「うん」
「マイペース、確かに」
「え?」
「いやいや。梅澤誠司です、よろしく」

あの見た目優等生キャラ誠司は、そこまで堅苦しい性格ではないと隼斗は感じた。誠司は空いている後ろの美穂の席に座り、ずいっと身を乗り出して机に手を置いた。

「あ、オレ吉村隼斗。好きに呼んでいいよ」
「あぁ、俺のことも好きに呼んで。ところで、どうして図書委員?」
「中学の時もやってたから」
「俺もだ。図書委員って絵がうまい奴多くてさ」
「オレは図書室が静かで落ち着ける場所だったから」

絵が好きでネットの住民、誠司はオタクなんじゃないかと隼斗が考えていると、じろじろと顔を見られている気がして誠司を見た。

「なに?」
「インターネットとかする?」
「え?」

もしや正体がばれたのかと思って隼斗は、とっさに言い訳を考え始めた。

「するよ?当たり前でしょ」
「だよな。自己紹介でも言ったけど、ネットサーフィン好きだから」
「オレもよくする」
「よかった、仲間いて」

何がよかったのかわからないが、バッと手を握られて隼斗は作り笑いをした。いまどきネットを使わない人のほうが少ないと思うが、それはあえて言わなかった。

「そろそろいいかな?隣のクラスまだ終わってないけど、終わりにしちゃおうか」

先生の終礼宣言に生徒たちは席に戻った。なかなか聞き分けのいい、真面目な生徒が揃っているのかもしれない。大半が先生が話す明日の予定や持ち物を紙にすらすらとメモをしている。

終礼が終わり、早々と隼斗が鞄を持って立ち上がると美穂は隼斗の鞄を掴んだ。

「ちょ、帰るの」
「近いんだから一緒に帰ればいいじゃん」

隼斗は一瞬驚いたが、美穂のぐいぐいした性格がどこか姉を思わせ、素直にうなずいた。帰りの30分間は他愛ない話で盛り上がり、あっという間に家に着いた。

隼斗は少しだけ、高校生活が楽しくなると思った。


『ももみや☆ブログ』
最新記事:始業式(。・_・。)ノ

今日は始業式でした(。・ω・。)b
校長先生の話って、なんで長いんだろ??
疲れちゃった…(;ノ・_・)
明日は身体測定?身体検査?のようです。
体操着忘れないようにしなきゃッ(;´Д`)
あっ、ももに早速お友達ができました(。・∀・。)
楽しい高校生活にしたいなあ♪♪





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