短編集(BASARA)
□心まで・・・
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オマケ
「元親様はいつもどこへ行ってらしたのですか?」
ある日、私が尋ねると、彼は照れたように目を逸らした。
心が通じ合ったあの日から、私たちの生活はがらりと変わった。
「あぁ…あれはな…」
気まずそうな彼を私は見上げる。
たまたま近くにいた女中がクスッと笑った。
「殿は奥方様の服や簪を見に行ってらしたのですよ。」
「おい!」
「え?」
慌てて止めようとする彼に数人の女中はクスクスと笑う。
「奥方様に似合う色は殿が一番知っていらっしゃいますわ。いつもいつも奥方様にぴったりの物を買って戻っていらしてましたから。」
そう言うと、女中達はクスクス笑いながら会釈をして去っていった。
「元親様…?」
「おまえには、菜の花のような黄色が似合う。」
彼を見ると、彼はそう言って、逃げるように目を逸らした。
思わず私もクスッと笑う。
「ありがとうございます、元親様。隠さなくてもよろしいのに。」
「恥ずかしいじゃねぇか。」
本気で恥ずかしいらしく、耳まで赤く染まっている。
私はもう一つ、不思議に思っていたことを尋ねる。
「そういえば…なぜ、私の名前を呼んでくださらなかったのですか?」
「……から…だ…
」
「えっ?」
小さな声に私は聞き返す。
「夢か幻かと思うと怖かったからだ…くっそ…!さっきより恥ずかしいじゃねぇか…」
さっきより赤くなった耳。
私は後ろから彼の手を握る。
「夢でも幻でもありませんわ。私はあなたの正室です。」
暖かな日だまりの中、彼が振り返り、私の名前を呼ぶと共に笑顔が浮かんだ。
(あなたの声は日だまりのよう)
(逃がさないぜ?一生な。)
(はい、逃がさないでくださいね。一生お供いたします。)
The End