戦国BASARA{2}
□第三節一章
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「お母様ぁ!!できたよ!!」
「じゃあ、皐月は幸村様とお祖父様をお呼びして。巧は女中を手伝って。」
昼前に小さめの広間を慌ただしく動く小さな姿。
「はーい!!」
「わかった。」
幼い少女と、落ち着いた雰囲気のある男の子は母親の言葉にそれぞれ返事をし、再び動きはじめた。
少女は駆け足で部屋を出ていき、男の子は昼食の膳をならべるのを手伝う。
「母上、父上から連絡はあったの?」
「えぇ。そろそろ帰れるそうよ。」
「そっか。よかったね、母上。」
「冷やかさないでちょうだい、巧。」
悪戯をするような笑みを浮かべた息子に名無しは恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ、僕はかすが様と棗様とまつ様を呼んでくるよ。」
「頼むわ。ありがとう。」
今日は友人と、血の繋がらない父、そして、仕える主と共に昼食をとる日だった。
昔と変わらない美しさの名無しは紅い瞳を細め、光の加減によっては紅い瞳にも見える巧も微笑んだ。
「うむ、よく働くな。巧。」
「あ、お祖父様!!」
「お父様。巧の髪をグシャグシャにしないでくださいね?」
と、そこに、信玄が笑いながら入ってきた。
「幸村様、呼んできた!!」
「皐
月姫は早いでござるな!!大きくなられた。」
走る皐月を追いかけ、幸村も到着する。
「うん!!だって、皐月、もう8歳だもん。早くお兄様みたいに大きくなって、お母様と一緒に手合わせするの!!」
「巧殿はおいくつになられた?」
「もう10ですわ。」
名無しが苦笑混じりに答えた。
「本当に、時が経つのは早いですね。私も歳をとりましたわ。」
「そうは見えんがな。」
信玄が名無しの頭に手を置いた。
「いつまでもそなたは美しいままではないか。」
「そんなことないわ。私も歳をとったもの。体力は落ちるし、老けたわ。」
「ワシに向かって自分が老けたと言うか。」
「お父様はまだまだ元気じゃない。老けてないわ。」
その時、
「名無しが老けてるならば、私はもっと老けましたね。」
「全然老けてないぞ。」
「名無し様はずっとお綺麗なままではないですか。」
まつ、かすが、棗も到着し、苦笑を浮かべながら言った。
「そんなことないわ。まつ様はずっとお綺麗じゃない。」
名無しは困ったように笑いながら言う。
「皆揃ったな。食べるか。」
「あ、お祖父様。今日は僕の剣術
を見てくださいね!!」
「お兄様、ずるい!!お祖父様、皐月と遊んで!!」
「そうだな。」
信玄は血が繋がらないが、可愛い孫達を愛している。
皆がいつものように席についた。
信玄、幸村が上座に、他は自由に座る。
棗はいつも、自分から下座に座る。
名無しの両脇に巧と皐月。
「では、いただきます。」
「「「「いただきます」」」」
幸村の音頭に、皆が膳に箸をつけた。
「おいしいわね。」
「そうだな。いつ来ても美味しい料理ばかりだ。」
かすがとまつが穏やかに微笑んだ。
しかし、
“ガシャンッ!!”
名無しがいきなり両脇に座っていた子ども達の器を叩き落とし、膳も倒した。
「母上!?」
「お母様っ!?」
「皆っ!!食べちゃダメ!!」
驚いた二人の背中を叩き、名無しは叫んだ。
「何!?」
「毒か!?」
広間はにわかに騒がしくなった。