□きらきらきらー
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「こっち。」
ぐいぐいと手を引かれて、古ぼけたアップレットの前に座らされる。
試しに一通り鍵盤を叩く。
「何でもいいか?」
「うん。」
特に音の狂いもなくいけるなと思い、近頃よく耳にする旋律を弾き始めた。
わずか2分足らずの明るく跳ねるような音が気に入っていて昔はよく弾いていたなと懐かしくなった。
最後の一音を叩いて、小さく息を吐いて何の気なしに後ろを振り返った。
「こんなんで良いか?」
「うんっ!すごいね、お兄ちゃんっ!!」
(先刻まで俺の顔にビビッて泣いてたのになぁ)
子供のくるくる変わる感情に感心していた。
するといつの間にかこちらに来ていた野分が、子供たちを引き連れて後ろに立っていた。
「ヒロさんが弾くとアップレットが白いグランドピアノに見えます!」
「はぁ?目が硝子玉になったんじゃねぇか?眼科行って診てもらえ。」
「酷いです…」
「だってなぁ、お前が分けの解らん事を云うからだ。」
「だって本当に見えたんです!白い薔薇とセットで。」
少し頬を染めて恍惚としながら云う姿に正直少し引いた。
「お前なぁ…」
「流石、俺のヒロさんです。」
「ばっ!何云って・・・!!」
恥ずかしさに、顔が赤くなる。
「俺のってどーゆーいみ?」
「それはね、ヒロさんは俺のこいび・・・えと、大事な人って意味だよ。」
また子供の教育上よからぬことを云いそうになった野分を思いっきり睨む。
どうも世間体を気にするということができないらしい。
子供達がいなければ思いっきり殴っていたところだった。
「ねぇ、もっとひいて?」
こちらの都合も考えずせがまれる。
「あ、俺も聴きたいです。」
「お前らなぁ・・・」
(そんな顔しなくても、わかってるっての)
きらきらの表情で見つめられてさも困ったような顔をして
盛大に溜め息をついて、一呼吸。
「しょーがねぇなあ」
今度は野分のために甘い調べを。



*終*
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