□萌殺の上條
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「今日は寒いですから。」
そう云ってた薄い着衣―いつもの白いシャツで―出ようとした弘樹に
何やら絹擦れの音をさせながら、何かを手渡した。
野分の親切な心遣いに目をみて例を云うべきだと思ったが、
まだ顔は赤いままで。
それを隠すため、うつ向いたままで感謝を述べた。
「ありがと。」
やっぱり目をみて云えばよかったなと後悔していると、
大層嬉しそうな野分の声が、
「行ってらっしゃい。」
と云った。
きまりが悪くて後ろを向いたまま、
「行ってきます。」
と返して、ノブを回した。


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