短編
□雫
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暗い、暗い、暗い。
密室。
…怖いから、
誰も入って来ないで。お願い。
視界に入るのは
自分で閉めた部屋の扉の鍵。
鍵が開いても誰も入れないように、扉の前に頑丈な机を置いた。
だって怖い。
誰かが私の記憶に残るのが怖い。
誰かの優しさを覚えて忘れられなくなるのが恐い。
誰かが私の中に入ることが怖い。
誰かを覚えて…、
誰かが消えてしまったときに傷つきそうな自分が恐い。
…ふと、耳に不快感が残った。
…あぁ。
扉も机も壊れてしまった。
壊されてしまった。
そのときの轟音が耳に不快感な音として残ったんだ。
…今度は、
自分が壊されてしまうかもしれない。
そう思ったとき、自分の頭上に何かがのった。
恐怖心が消えた。
今まで自分の中を支配していた何かが、砂浜に触れ、すぐに退いてゆく波のように、サーッと体から出て行く感じがした。
自分の上に何がのったのだろうか。
頭上に震える手を伸ばした。
…、
『(ぼうし。)』
帽子がある。
見覚えのある麦わら帽子。
それには温もりがしっかりと残っている。
ゆっくりと横を見ると、
真ん丸な汚れ無き目と、自らの汚れてしまった目が合った。
「…お前ェ、泣いてるのか?」
優しい声が、初めて心まで染み渡った気がした。
私が…、泣いてる?
これが泣いてるって言うのか。
「大丈夫だ。」
…私は、何も言ってないのに、どうして…。
「1人じゃねェ。」
どうして…。
「俺たちがいる。
お前を残して消えたりしない。
―絶対だ。」
…嗚呼、目から溢れる雫たちは、止まってくれそうに無く、何故止まらないのかを必死に考えた。
考えて考えて考えて、辿り着いた答え、
…それは――
(泣きだいときは泣けば良い。)
(上手く笑えなくてもいいんだ。)
他人より少し臆病者なだけ。